第五回 吉田茂首相の施政方針演説

内閣総理大臣 吉田茂

1949年(昭和24年)4月5日、参議院本会議より。



 ここに現内閣の施政方針について陳述する機会を得ましたことを欣快に存じます。

 思うに国民は今回の総選挙において、終戦以来の苦しき経験に鑑み、安定せる政局の下に、わが国の再建を健全なる保守党に託さんとして、我われ保守政党を圧倒的に支持したものであると信ずるものであります。(拍手)

 ここに政府は着々所信を断行し、もって国家の復興再建を成就し、外は連合国の好意と援助とにこたえ、内は国民の与望と負担にこたえんとするものであります。

 過去10年間に亘る無謀なる戦争による名状しがたき破壊と混乱の後始末を成し、わが国の復興再建を図るために、挙国一致協力、この痛ましき現状を直視し、一大決心の下に、一大覚悟の下に敢然として将来の大計を今日これをたつべきものと信ずるものであります。 (拍手)

 昨年12月19日、マッカーサー元帥の私に宛てられた9原則を含む書簡、及び最近におけるドッジ氏声明等は、全て右の主旨により出でたものであります。私もこの線に寄るにあらずんば、わが国の再建は出来難し、と衷心より信ずるものであります。(拍手)

 今回提出せんとする予算案は、右9原則及びドッジ氏声明の主旨を了承し、政府の責任において、これを具体化したものであります。政府は幾多の困難なる事情あるに関わらず、まずもって均衡予算を作成し、真の自立再建を図る決心であります。

 しかしながら敗戦後今日に至るの間、我が国経済は非常に縮小し、わが国財源は極端に枯渇し、重税に国民は未だかってみざる苦痛を感じつつあるのであります。まことに憂慮に堪えざる事態であります。ゆえに政府は根本的に行政税制等の改革を断行いたしまして、均衡予算案実施の途上においても、税制及び徴税方法の改善を図り(「なにを言うか」と呼ぶ者あり)、他方、歳出の面におきましても、さらに現実に節約を期しまして、出来得る限り国民財産を処分し、実績を得るに従って臨時国会を召集して、予算の補正、国民負担の軽減に努力する覚悟であります。(「また騙すか」と呼ぶ者あり)

 真の安定と進歩とは、国家的諸問題を健全な財政通貨政策によりまして処理することに立脚しなければならぬのであります。有効なる安定をもたらすためには、財政政策の基本的手段たる政府の予算と、すべての政策決定とを関連させることが必要なのです。

 過去においてインフレーションを激化せしめたのは主として政府であります。今日の段階において、これを終焉せしめなければ、国家経済の破滅をきたすよりほかはないのであります。補給金と投資、その他一般の費目から支出を削ることは、政府にとってまことに困難なることでありまするが、これは必ず断行しなければならないのであります。

 また、わが国の現状をみまするのに日本の生産指数は米国の援助資金の増加につれて上昇しており、輸入超過額も増加いたしますし、輸出入の不均衡は年々激増いたしておりますが、僅かに米国の援助資金によって辻褄を合わせておるような状態であるのでありますが、この現状は国家経済上看過しがたきところであります。

 経済の終局的安定を図り、徹底的にインフレーションを終焉せしめ、さらに豊かなる経済的発展を遂げ、祖国を自立再建するために、国民生活において、たとえ一時容易ならぬ影響があるといたしましても、国民最大多数の究極における幸福のために断じて行わなければならないところであります。

 出来得る限り早く、光明のある未来を招来するためには、手術は早きを必要といたしますし、国家をしてこの手術に堪えしむるためには、一に国民諸君の不動の信念と熱烈なる愛国心の協力にまたねばならないのであります。(拍手)

 連合国、特に米国の日本に対する深い理解と絶大な援助は、我々の衷心感謝置くあたわざるところでありまするが、我々として最も大切ななることは、出来得るだけ早くこれらの援助なくとも自立し、祖国を再興するということであります。私は連合国の恩恵のみに依存することなく、国民みずから強烈なる自主的精神と、耐乏生活に徹した努力とによって、速やかに再建を成就する決意を8千万国民をあげて、堅うせらるることを切望してやまないのであります。(拍手)かの英国国民が非常なる決意の下に経済的自立を目指して協力一致いたしておる態度は、我々の最も学ぶべきところであると信じるのであります。

 私は現内閣が今後遂行せんとする強力にして責任ある政策に対し、国民諸君が全幅の後援と鞭撻とを与えられんことを希望してやまないのであります。ここにひと言申し上げたいことは近く設定をみまする単一為替についてであります。単一為替レートは、申すまでもなく貿易振興、外資導入のために必要欠くべからざるものであります。

 現在日本の経済は、一応表面的には安定の段階に達しておるようにみえまするが、その実は自力によるものではなく、米国の援助に支えられての安定であり、内面に於いては幾多の不安定要素を包含しておるのであります。たとえ単一為替レートの設定をみましても、健全なる経済力の回復がなければこれを維持しうることはできないのであります。また経済復興に必要なる外資の導入も期待し得ないのであります。

   尚、その他、輸出産業の刷新とか、農業の振興改良、失業対策、災害対策、文教の刷新、科学技術の振興、道義の高揚等ことごとく皆重要でありまするが、これらの施策については順次所管大臣より詳細ご説明致す筈であります。尚、海外同胞の引き揚げにつきまして一言いたします。これまで約六百十余万の引き揚げを了しましたが、未だなお四十余万同胞が厳寒の地に四たび越冬を余儀なくされておることはまことに遺憾であります。その親戚故旧及び家族に対しましては、まことに同情に堪えないのであります。連合軍司令官も非常に同情をもって引き揚げ完了に尽力致しておりますし、相手国との交渉に於いても不断の努力を払われております。その結果、相手国も我が国の事情はよく了承しておられると存ぜられますから、本年中には引き揚げ完了を期待しうるものと信ずるのであります。

 この機会に一言致しまするが、近次わが国の国際情勢よりきたる将来の危険性に関連いたしまして、種々の噂が生じておりますることは、諸君ご承知の通りでありますが、これは敗戦後常に生ずる状態であります。しかしながら、何れの国も戦争の記憶は今なお新たなるものがあり、またいずれの国も平和を欲するということは明らかでありまするから、私は国民が軽々しく海外情報に迷わされることなきように希望致すのであります。

 また最近、学術、宗教、赤十字、労働、通商の諸会議に招請を受くることようやく多く、また通商使節として海外渡航許さるる者の多きに至れるはまことに喜ぶべき現象であります。また国内事情に於いて極右極左というような言葉をよく聞くのでありまするが、これは、ためにする者の言うところであって、現在国民の大多数は安定せる政局の下に経済再建を強力に衷心よりこい願っており、またその途に邁進強力していこうと決意している国民であることを私は信じて疑わないのであります。(拍手)

 しかしながら、またあらゆる手段を弄して、祖国の再建を妨げ(「民自党のごとく」と呼ぶ者あり)、祖国に破壊と混乱をもたらさんとする者が少数ながら一部に存在することは、私は遺憾ながら認めなければならないのであります。(「そうだ」と呼ぶ者あり)これを要するに、この度提出の予算は、戦後の我が政府が当然実行せなければならなかったことを、いままで怠っていたものであります。政府はポツダム宣言及び九原則を含むその他の管理政策を、熱意をもって(「嘘を言うな」と呼ぶ者あり)誠実に順守履行し、国民はこぞって経済的愛国心により自主経済並びに民主政治を確立し、世界列国が一日も早く栄誉ある国際社会の一員として、我が国を迎うるに至らんことを、国民諸君とともに熱望してやまないのであります。

 ここに政府の施策大綱と私の至情とを披瀝し、あえて国民諸君の協力と奮起とを衷心より切望いたすものであります。(拍手)         了


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