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ジャワ風景

文部省

底本:『初等科國語 七』(1943年)



自動車に乘つて、タンジョン・プリヨクの港から、ジャカルタの町へ向かつて行く。道は運河にそつてゐる。運河には、いろいろな模樣(もやう)をかいた小さな船が、三角の帆をあげて靜かに浮かんでゐる。
 野原には、山羊(やぎ)の群があちらこちらにゐる。眞靑な空には、白い雲が光を帶びて流れてゐる。
 自動車の運轉手は、若いジャワ人で、びろうどのづきんをかぶり、風のやうな速さでタマリンドの並木路を走り續ける。
 その緑の木かげにも、山羊の群がたくさんゐる。白い山羊もゐれば、黑いのもゐる。まだらの山羊もゐる。これを追つてゐるのは、みんなジャワの少年たちであつた。

 ジャワは、果物(くだもの)の島。
 果物の女王と呼ばれるマンゴスチンがある。
 形は、まくはうりのやうで、味は、熟し柿そつくりのマンゴーがある。
 じやがいものやうなかつかうで砂糖のやうにあまいサオ、一面にとげの生えた鬼の頭のやうなドリヤン。
 世界でいちばん大きな果物といはれるノンコの實もある。
 そのほか、パイナップルや、ザボンや、パパイヤなどもあつて、それが、みんな目のさめるほどみごとなものばかりである。
 バナナに至つては、その種類の多いことだけでもびつくりさせられる。

 ジャワ人たちは、男でも女でも、サロンを腰に巻いてゐる。いはゆるジャワ更紗(さらさ)で、赤や靑や緑などで、花鳥(くわてう)を染め出したはなやかなものが、いつぱんに用ひられてゐる。

 中央ジャワの高原にあるマゲランといふ町へ行く。さわやかな山道を、汽車は鐘を鳴らしながら登る。小さな山の驛に着くたびに、かごを頭に載せた女たちが、窓のところへ物賣りにやつて來る。ばせうの葉に包んだ御飯や、バナナのあげものや、山羊(やぎ)の燒肉などがある。葉に包んだ御飯は、日本のかしは餅を思はせる。
 高原にも牛や羊(ひつじ)や水牛がゐる。
 スチャンといふ驛で乘りかへた時、ジャワ人の品のよい一家族が乘つて來た。その靜かなたちゐふるまひを見て、このあたりがいちばんジャワらしい風習の殘つてゐるところだといふことを思ふ。
 百年ばかり前、ジャワが、オランダと戰つたことがある。その時、ジャワの英雄ジポ・ヌガラが現れて、五年間も守り續けた。その英雄を生んだのが、この地方である。
 まもなく、汽車はマゲランの町にはいり、市内電車のやうに町の中をどんどん走る。止つたところは商店街の眞中である。
 その夜は、高原の町マゲランにとまる。虫の聲を聞きながら、遠くムラピ山から立ちのぼる赤い火を眺めた。


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