ルース大使の早稲田大学での講演

ジョン・V・ルース駐日米国大使(John Victor Roos)

2010年(平成22年)1月29日



日米同盟 - 今後も変わらぬその重要性

(白井克彦・早稲田大学総長がルース大使を紹介)

 白井総長、温かい歓迎のお言葉、どうもありがとうございます。また、日米間の教育交流の重要性についてお話をいただきありがとうございました。今 日は日米の安全保障同盟についてお話ししますが、私は日米間の文化・教育交流にも非常に深い関心があります。駐日大使として、この分野に多くの時間を費や すつもりであり、すでにそれを実行しています。また、本日このイベントを主催してくださった早稲田大学日米研究機構の皆さんにもお礼を申し上げます。そし て、極めて重要かつ時宜にかなうと考えるテーマについて、私の話を聞くために時間を割いてお集まりくださった皆さん、特に学生の皆さんに心から感謝の意を 表したいと思います。

 私が申し上げるまでもなく、皆さんご存知のように、早稲田大学には長く素晴らしい歴史があります。第2次大戦後の日本の首相のうち6人がこの大学 の出身です。また早稲田大学には、エドウィン・ライシャワー大使、ビル・クリントン大統領、そしてトム・フォーリー大使といった多くの著名人が訪れ、講演 しています。ですから本日は、皆さんの前に立つことを心から光栄に感じ、身の引き締まる思いがしています。皆さんもご存じのように、今年は、私の国と皆さ んの国が「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約(日米安保条約)」を締結してから50年目に当たります。アイゼンハワー大統領が 1960年に「不滅」と形容し、先週はクリントン国務長官が「不可欠」と表したこの同盟関係を記念すべき時です。さらに重要なことに、現在の課題を検討す るとともに、より持続性が高く前向きな同盟関係を築き、これからの50年間がこれまでの50年間と同様に、この地域にとって安全で安心なものとなるように するための方法を検討する時でもあります。間違いなく、これには大きな利害がかかっています。日米同盟が冷戦時代を通じて平和のアンカー(いかり)の役割 を果たしたように、日米のパートナーシップは、現在この地域が直面している歴史的な変化を乗り越えるために極めて重要です。

 昨年12月、私は日本国際問題研究所で講演し、主に日米関係の多面性について、またそれをさらに広げる方法についてお話ししました。一例を挙げる と、米国と日本は、世界で最も革新的とは言えないまでも、少なくとも世界有数の革新的な国であることから、日米両国が気候変動問題やエネルギー安全保障の 必要性の問題に対する解決策を見出すために協力して実施することができる、またそうしていく重要な取り組みについてお話ししました。また、日米両国が、核 軍縮という共通の目標達成に向けた活動を主導し、深刻さを増す核拡散の問題に対処することのできる特異な立場にあることをお話ししました。日米両国には、 すでに持つ深いつながりや、協力して行っている重要な活動を拡大する素晴らしい機会があります。そして先週日米両政府は、この日米安保条約締結50周年の 年に、これを実行することを約束しました。しかし、そのような活動のよりどころとして何よりもまず必要なのは、両国の戦略的同盟関係の強力な基盤です。こ の不確実な、急速に変化する世界にあって、この地域の諸国が最も強く求めているのは、不変の強力な日米安全保障パートナーシップです。ですから今日、私 は、日米安全保障関係の中核となる部分に重点を置いたお話をするとともに、沖縄の米軍基地をめぐって今行われている論争の背景について少しご説明したいと 思います。私がこのスピーチの場として早稲田大学を選んだのは、この大学には長年にわたってアジアの安定と発展を重視してきた歴史があるからです。また、 日米両国の指導者たちが今下す決断によって最も大きな影響を受けることになるのは、日米両国の若い人たち(すなわち本日ここにいらっしゃる皆さん)です。 ですから、皆さんがこの議論に参加することが非常に重要なのです。

 過去を振り返ると、日米同盟関係が東アジアに半世紀に及ぶ平和をもたらしたことにより、日本とこの地域全体が、かつてなかったほどの安全と繁栄を 達成したことを、日米両国は誇りとすることができます。両国が同盟を結んだ当時、その後の半世紀にわたる平和と繁栄は、決して約束されたものではありませ んでした。1960年には、米国とソビエト連邦の冷戦が最高潮に達していました。38度線そして台湾海峡を挟んだ緊張が高まり、どの当事者も満足せず、恒 久的なものと見なしていなかった境界線を挟んで、日常的に銃撃戦が行われていました。

 しかし、その後の50年間、紛争が発生することはありませんでした。在日米軍を主な要素のひとつとする日米の安全保障パートナーシップが、朝鮮半 島での、また台湾海峡を挟んだ全面戦闘の再開の抑止に貢献するとともに、太平洋地域に国力を及ぼそうとするソ連の動きを封じ込めました。この盾を得て、日 本は急速な経済成長のモデルを生み出し、間もなくこの地域の他の国々がこれを手本としました。所得の増加とともに韓国と台湾で民主主義が繁栄しました。米 国が日本や世界各地の他の民主主義同盟国と密接に協力して、国際的な規則と規準を確立したことによって、人類史上最も活発な通商と革新の時代が到来しまし た。このシステムの成功により、私たちは最終的に冷戦を終結させることができました。

  私が就任してからの数年間に…数年ではなく数カ月です…時には数年のように感じられることもありますが…大使としての最初の数カ月間に、政府関係者も含 め、多くの人たちが、日本国内に現在のような規模そして構成の米軍基地が必要なのかという疑問を提起してきました。しかし、世論調査によると、日米同盟に 対する一般市民の支持はこれまでにも増して強まっています(最近の調査では85%が日米同盟を支持しています)。私は米国から戻ってきたばかりですが、そ こでも多くの人から同様の疑問が聞かれました。最近ヨーロッパで駐留米軍の再編が行われたことを、日本でも大幅な再編を行う理由として挙げる人もいまし た。しかし、冷戦が終結しても、この地域で平和と安定を維持するための米軍の前方展開と米国の安全保障態勢の重要性は、多少とも減少するものではありませ ん。ヨーロッパにおいてさえも、相互安全保障機構である北大西洋条約機構(NATO)によって国境を越えた紛争が発生する可能性が大きく減少しているにも かかわらず、米国の同盟諸国は、米国が8万人の兵士と戦術核兵器を維持して(ヨーロッパの)安定の確保に資することを期待しています。さらに大きな懸念事 項は、冷戦の終結にもかかわらず、この地域で危機のレベルが高いままであるという点です。中国が多額の資金を投入して軍隊を飛躍的に近代化し、北朝鮮がミ サイル・核開発計画を進める中で、日本の安全保障の現状が、21年前にベルリンの壁が崩壊した当時と変わらない複雑な状況であることはほぼ間違いありませ ん。

 最も差し迫った懸念事項が今も北朝鮮であることは明らかです。北朝鮮は、100万人以上が兵役に就いている、世界で最も軍事化された国家であり、 通常兵力の面で引き続き脅威となっています。過去数年間、北朝鮮は、弾道ミサイルなど幅広い能力の開発に力を入れてきました。また、ご存知のように、自ら の兵器技術を使って世界各地の危険な政権から現金収入を得て、そうした技術を拡散してきました。私たちがこのような軍事的な脅威に対処する準備を進める間 にも、北朝鮮で、特に権力継承との関連で、政権が崩壊するのではないかという懸念が高まっています。北朝鮮の国内が混乱状態になれば、この地域の安全保障 にとって極めて大きな問題となるでしょう。私たちは皆、外交手段によって北朝鮮を国際社会の一員となる方向へ導く努力を重ねてきました。そして、これから もそうした努力を続けるつもりです。しかしながら、私たちの外交努力は、ひとつには、北朝鮮が目標達成のために他の手段を使うことを妨げる私たちの抑止力 の信頼性にかかっています。

 おそらく、今日の世界で私たちが直面する複雑な問題を最も良く表わしている例が中国でしょう。米国、日本、そして中国の経済が相互依存性を増して いることに疑いはありません。米国は、日本と中国の資本に依存しています。中国は、米国と日本の技術なしには成功することができません。そして、日本と中 国は米国の市場に依存し、私たちは中国の市場に依存しています。この3カ国間の相互作用が、世界経済の推進力となりました。また、気候変動から北朝鮮の核 開発計画に至る世界的なさまざまな問題を解決する上で、中国の指導力は極めて重要です。オバマ大統領は、米国が中国との前向きで協力的かつ包括的な関係を 求めていることを強調し、世界は、中国政府が今日の重要な課題に取り組むために米国、日本、そして国際社会と協力することを期待しています。例えば、最近 中国は、国際金融制度の安定化のために、また重要なシーレーンを海賊から守るために、パートナーとして私たちと協力しました。米国と日本は同盟国として共 通の利害があることから、私たちは、日本が中国との2国間関係に積極的に関与するのは好ましいことであり、米国の関与を補完するものであると考えていま す。この3カ国の関係、そしてそれぞれの2国間関係は、一部の人たちが言うようなゼロサム・ゲームではないのです。

 しかし、米国と日本が中国とパートナーとして協力する一方で、私たちは中国の軍事近代化の加速に疑問を持っています。中でも、サイバー戦争、衛星 攻撃兵器、そして急速に近代化される核兵器、潜水艦および戦略部隊といった分野について懸念しています。過去10年間に、台湾の向かい側で軍事能力の増強 が行われてきたことは、平和と繁栄に不可欠な、海峡を挟んだ長年にわたる軍事力のバランスが徐々に失われることにつながる可能性があります。中国が最近、 領海を越えた公海で航海の自由を制限しようとしていることに対して、米国と同様に、この地域の多くの国々が懸念を抱いています。海運大国である米国と日本 の将来にとって、航海の自由は不可欠です。

 このような懸念を誇張することは避けたいと思いますが、この地域にこうした不確定要素がある中で、安全保障環境の大きな変化が地域の将来の平和と 繁栄に悪影響を与えないようにするためには、強力な日米同盟関係による抑止効果が不可欠です。信頼できる抑止力を維持することで、軍事力行使の代償は、そ れによって得られるいかなる政治的あるいは経済的な利益よりも高くつくことになります。世界最大の5つの軍隊のうち4つが存在するここ東アジアにおいて、 それは極めて重大なことです。この地域で軍事衝突が発生した場合の代償は想像を絶します。人的な被害に加え、たとえ短期間の紛争であっても、世界経済を少 なくとも何年分も後退させることになります。過去数週間にわたり、シンガポールから台湾、そしてソウルに至る各国の指導者や論説が、日米同盟にあるとされ る緊張状態について懸念を表明しているのは、そのためです。日米同盟は、この地域を安定させるために不可欠な力なのです。

 在日米軍の基本的な役割は、この地域で軍事力の行使を考える人々に、その選択肢は使えないということを理解させることです。米軍の前方展開によっ て、米国は新たな脅威に直ちに対応することができるのですが、それだけでなく、米軍の前方展開は米国の関与を表わす具体的なシンボルとしての役割も果たし ています。日本に駐留する4万9000人の陸・海・空軍兵士と海兵隊員は、米軍の前線部隊です。

 米国はなぜ、財産を使い、場合によっては国民の血を流してまで、日本およびその他の国々に対する義務を負っているのでしょうか。オバマ大統領が ノーベル平和賞受賞スピーチで述べたように、「米軍兵士たちの役務と犠牲によって、ドイツから韓国までの世界各国の平和と繁栄が促進され、バルカン半島の ような場所で民主主義が根付くことが可能になりました。私たちがこうした負担を負ってきたのは、自らの意志を押し付けるためではありません。それは賢明な 国益によるものです。つまり、私たちは、子供や孫の世代のために、より良い未来を求めているからです。そして、他の国々の子供や孫の世代が自由と繁栄の中 で暮らすことができれば、私たちの子供や孫のためにもなると考えるからです」

 現在の在日米軍の構成は、世界で極めて重要なこの地域において安定と抑止という目標を達成するためにはどれほどの軍事力が必要かという評価に基づいて決められたものです。

 例えば、米空軍は、制空権、反撃、および情報収集のためにトップレベルの航空機を配備しています。横須賀と佐世保に米海軍が駐留することで、いか なる緊急事態が発生しても、何週間かではなく何日かの間にこれに対応することができます。また米海軍は、日常的に日本側と協力して、日本周辺の海域で増え つつある外国の潜水艦を追跡しています。米陸軍は、この地域で紛争が発生した場合には兵たん支援を行うとともに、海軍、空軍、および日本の自衛隊と一体と なって、弾道ミサイルで日本を防衛します。

 沖縄の米海兵隊については、皆さんもお聞きになっていることと思いますが、おそらく一般国民には最も理解されていない部分でしょう。しかし現実に は、平時においても、また万が一、紛争が発生した場合においても、米国が配備する部隊の中で最も重要なもののひとつです。ですから、ここでもう少し詳し く、専門的なお話をしたいと思います。それは、海兵隊の存在について理解しておくことが大切だと思うからです。沖縄の第3海兵遠征軍は、他のすべての米軍 の中心的な能力を集め、海兵空地任務部隊という、迅速な展開のできる自己完結型の戦闘部隊を組織しています。海兵隊は、陸、空、および兵たんの各兵力を併 せ持っているため、いかなる有事あるいは緊急事態においても、他の軍隊による複雑な兵たん・空輸支援を待つ必要がありません。沖縄の海兵隊に割り当てられ た短距離ヘリコプターは、北東アジアと東南アジアをつなぐ諸島のどこへでも、必要な場所へ沖縄の地上戦闘部隊や支援部隊を迅速に輸送することができます。 さらに大規模な、あるいは長距離の軍事行動の場合は、わずか2~3日の航行距離のところにある佐世保の米海軍艦隊が海兵隊を支援し、海兵隊の地上および航 空戦力を地域内のどこへでも輸送できます。2004年にアジアを襲ったインド洋の津波、フィリピンの土石流、あるいは最近の台湾の台風のような大きな自然 災害がアジアで発生した際に、通常、救援部隊として沖縄の海兵隊が主に対応するのは、こうした機動力と前方展開のたまものです。ほとんど知られていないこ とですが、海兵隊は、他の米軍部隊と共に、過去5年間だけでも12件の大規模な人道的支援および災害救助を主導し、またはそうした活動に参加し、この地域 で多数の人々の救命に貢献してきました。沖縄の海兵隊は、この地域で何らかの武力紛争が発生した場合にも同様に迅速に対応し、現場に真っ先に到着して、重 要な施設の安全を確保し、市民を避難させ、前方の陸上および空からの攻撃力を提供することになります。

 海兵隊が完全に日本から撤退したならば、地域内における海兵隊の機動性と有効性に影響が及び、この地域に対する米国の関与について否定的な見方が 広がる可能性があります。沖縄の海兵隊の次にこの地域に近い場所に配備されている陸上戦闘部隊は、ハワイの陸軍部隊であり、この地域の有事に際しては、移 動距離が長いために米国の対応が遅れることになります。

 さらに、海兵隊および日本に駐留するすべての米軍が現実に即した演習を行う能力を持つことにより、いかなる状況にも対応できる準備が整えられると ともに、目に見える抑止力となることができます。日本における米軍の行動には、この地域全体が注目しています。嘉手納空軍基地から飛び立つF-15の空対 空戦闘訓練であれ、日本海側の民間港への弾道ミサイル防衛システム搭載イージス艦の寄港であれ、日本を防衛する米軍の能力を使って公開演習をすることに よって、そうした能力を現実の紛争で使わなければならなくなる可能性が低くなります。

 言うまでもなく、日本における米軍の前方展開戦力の後ろには、通常兵器と核兵器から成る米国の総合的な軍事力が控えています。万が一、紛争が発生 した場合には、前線部隊が増派なしで長期的な戦闘を続けるためにぎりぎりまでがんばるでしょう。そのため、米国は、常にF-22のような軍事資源を日本に 輸送し、万が一の事態に備えて、必要な資源をできる限り迅速に配備できるようにしています。

 ここで少し、核に対する米国の姿勢についてお話ししておきたいと思います。北朝鮮が核兵器開発計画を進めていること、そしてこの地域には核保有国 と認識されている国が2つあることから、米国が日本に提供している核の抑止力は明らかに重要なものです。ご存知のように、オバマ大統領は、核兵器の廃絶と いう目標を達成する決意をしており、私たちはその目標を達成するために、今後も全力を尽くさなければなりません。しかしながら、その目的を達成するまで は、米国、日本、そして他の同盟諸国のために効果的な核抑止力を維持することが、決して揺るがすことのできない米国の責任であることには変わりありませ ん。

 もちろん、日米同盟は、日本との責任分担とパートナーシップがなければ、効果的に運営することができません。日米安保条約の下で、米国には、日本 を守るために必要な陸・海・空の戦力を提供することが義務付けられています。その代わりに日本には、米軍が日本を防衛し、東アジアの平和と安全保障を維持 するために必要な基地と用地を提供する責任があります。これが、過去50年間にわたり、この2カ国、そしてこの地域にとって、非常にうまく機能してきた基 本的な協定です。在日米軍が存在するからこそ、この地域は、平和を維持するという米国の約束を再確認することができます。米国は、日本が提供する基地がな ければ、こうした役割を果たすことも、この条約の約束を守ることもできません。一方で米国は、日本における米軍基地の構成を改善する手段を常に追求しなけ ればならないことも認識しています。これに関しては、活発な議論が行われている、2006年に合意した「再編実施のための日米のロードマップ」に、過去数 十年の日本の人口構成の変化に対応して米軍を再編する必要性に関する共通の認識が、一部反映されています。より長期的には、必要な抑止力を維持しなければ なりませんが、同時に、人口密集地域では米軍基地の面積を縮小しなければなりません。

 これが最も当てはまるのが沖縄です。沖縄は戦略的に重要な位置にあるため、戦争中は極めて大きな被害を受けました。その後、沖縄は、同様の戦略上 の理由により、日本の他の地域よりもはるかに多くの米軍基地を受け入れています。残念ながら、安全保障環境の動向を考えると、日本の防衛と地域の平和維持 における沖縄の重要性が軽減することはなく、むしろその重要性は増しています。そのために、例えば日本の自衛隊は再編を行い、琉球諸島への配備を重視しよ うとしています。

 しかしながら、米国は、沖縄の歴史的経験に配慮し、沖縄県民の懸念とその戦略的重要性との間でバランスを取る必要性を認識しています。2006年 のロードマップは、この2つをできる限り効果的に両立させることを目指したもので、そのために、嘉手納空軍基地以南の人口密集地にある米軍基地の用地を 70%近く返還し、米軍の能力の一部を、北部の、より人口の少ない地域へ移すことを提案しています。中でも、海兵隊普天間飛行場のキャンプ・シュワブへの 移設と、それに伴う海兵隊員8000人のグアムへの移転は、この計画の中で最も論議を呼んでいる部分です。この取り決めは決して完ぺきなものではありませ ん。完ぺきな妥協案というものはありません。しかし、この問題を特に難しくしている点は、日米両国が10年以上にわたって事実上考えられる限りのあらゆる 代替案を検討・議論した末に、普天間飛行場をできる限り迅速に、かつ日米の条約の遂行能力を低下させることなく閉鎖するためには、現在の計画が最善の選択 肢である、との結論に達したという事実です。しかし私は、日米両国が現在の課題を克服し、その結果として日米同盟がますます強化されると今も確信してい る、ということを皆さんにお伝えしたいと思います。

 しかし、普天間の閉鎖によって、米軍再編の取り組みにおける私たちの作業が終わるわけではありません。このほかにも、騒音や環境問題など地元の懸 念に対処するさまざまな手段を模索しており、今後もそうした課題に対処するために、共に力を尽くさなければなりません。例えば、基地内の建設工事に最新の グリーン技術を採用するなど、在日米軍基地を環境にやさしいものにするためにできることがまだたくさんあります。

 それ以外にも、私は、沖縄がこの活気ある地域で戦略上重要な場所に位置していることの経済的な利点を十分に享受できるようにするために支援できる 点がまだたくさんあると確信しています。最近沖縄を訪問した時、沖縄に日本とアジアと米国をつなぐ架け橋としての役割を果たす潜在的な能力があることを知 り、感銘を受けました。また、沖縄科学技術大学院大学については、科学部門においてもビジネス部門においても沖縄県の知名度を高める、真に世界に通用する 研究機関としての将来が期待されます。若く、増加する人口と、外国のアイデアや経験を受け入れる土壌を持つ沖縄県は、このグローバル経済の中で大きく発展 できる位置にあります。米国と日本が沖縄県の発展を促進するためにできることは多く、そのために創造性を発揮しなければなりません。

 基地の提供に加えて、日本の接受国支援は、米軍の即応性を直接、経済的に支えています。正直なところ、私は、接受国支援を「思いやり予算」と呼ぶ のは適切ではないと思っています。世界で最も先進的かつ最もコストの高い軍事能力の一部を日本国内で維持するための米国のコストの一部を分担することは、 重要な措置です。日本の接受国支援総額は年間およそ43億ドルであり、これはすべて賃借料、給与、あるいはサービスといった形で日本経済に還元されていま す。

 日本の防衛支出全体を見ると、日本は国内総生産(GDP)の0.85%を防衛にあてています。この比率は、韓国では2.7%、オーストラリアでは 2.4%、中国では4.3%、そしてシンガポールでは4.9%となっています。米国は、GDPの4%以上を国防に費やしています。GDPに占める国防費の 割合のランキングでは、日本は世界第150位です。これに対して、日本の主な近隣諸国は130位以内に入っています(注:正しくは130位でなく30 位)。

 米国は、接受国支援を、日米同盟維持の全体的なコストへの重要な貢献と考えていますが、その使途について多くの方が疑問を持っていることも理解し ています。米国が2008年に、日本の納税者が可能な中で最も効率的な制度の恩恵を受けられるよう、接受国支援の包括的な見直しを実施することに同意した のは、そのためです。そして、私たちは今後も、在日米軍に対する日本の投資を慎重に管理していかなければなりません。

 ここで、日米の戦略的同盟の今後の展開に対する私たちの見方についてお話ししたいと思います。米国の日本への関与が変わることはありません。同時 に、私たちは、日本の憲法の範囲内で、さらに対等かつ効果的な防衛パートナーシップを築くべく、日本と協力することを強く望んでいます。それは、リスクと 責任の分担が、さらなる安全保障の強化につながるようなパートナーシップです。日米両国が厳しい財政難に直面している今、急速に変化する戦略的環境の中で 地域の軍事的均衡の維持を目指すには、協調を進め重複を避けることが不可欠です。10年以上にわたって、日米両国は、特に有事または緊急事態に備えた計画 立案の分野で、軍同士の協力をより緊密にしてきました。横田基地に日米両方の防空要員を配置すること、またキャンプ座間に日米両方の司令部隊を置くことに よって、両国の作戦面での調整をさらに強化する機会が生まれます。また、日米の陸・海・空の2国間合同演習を増やす取り決めも、同様に重要です。言うまで もなく、この10年間、弾道ミサイル防衛での協力が、日米の軍同士の協力の推進力となっており、将来も引き続き重要な分野です。これらの措置はすべて日米 同盟の変革計画に反映されており、同盟の総合的な抑止力を強化するものです。

 協力を深めるために今後協力してできることはまだたくさんあり、それが、より低いコストで、より大きな抑止力を提供することにつながります。鳩山 首相は最近、シンガポールで、米国と日本が東南アジアの自然災害救援への関与を増すことについて話をしました。地域の人道的危機には、米海兵隊と日本の陸 上自衛隊が協力して、緊急救援隊として対応することができます。そのような危機が発生した場合には、日米両国は同盟国として連携して対応することができる し、そうすべきです。現在、私たちはハイチで国際社会と連携しており、日本はこの悲惨な状況への対応に、価値ある大きな役割を果たしています。鳩山首相が 提案されたように、東南アジアの友人たちを支援することに加えて、私たちは、価値観や目標を同じくする地域内のパートナー諸国との協力の強化を目指すべき です。近年、米国と日本は、韓国およびオーストラリアのそれぞれの国と、3カ国間の対話を確立してきました。こうした多国間の関与は、極めて重要なエネル ギーおよび食料を輸送するためのシーレーンを防衛し、弾道ミサイルなどの脅威を防ぐ私たちの活動を補完することができます。

 米国と日本には、その抑止力を宇宙とサイバースペースへ拡大するためにできることがまだたくさんあります。両国は、衛星およびコンピューター技術 において品質の面で優位に立っています。こうした技術は、情報、監視、偵察といった分野で協調して展開することができます。この地域で潜在的な脅威が広 がっていることを考慮すると、私たちには、重複した活動を行う余裕はありません。

 最後に、日米のパートナーシップはこの地域外にも拡張できるものであり、またそうすべきです。新たな世界の大国が台頭する一方で、途上国の多くで 国家管理の弱体化が見られます。気候変動、人口増による圧迫、民族間の対立、そして経済危機の影響で、フィリピンからイエメンまでさまざまな国々が、国内 の事態の統制に苦心しています。残念ながら、こうした環境では、テロリスト、海賊、そして犯罪組織が、日常的な存在として、はびこっています。今日の相互 につながった世界では、こうした人々や組織が、ソマリアやイエメン、そしてパキスタンの国境周辺地域のような場所を利用して、通商を妨害したり、国境を越 えた暴力行為を行うことができるために、国際社会全体に対する脅威となっています。いわゆる「グローバル・コモンズ(世界の共有資源)」を守ることが、安 全保障の主要な目的のひとつになりつつあります。日本の海上自衛隊が「アフリカの角」へ派遣されたこと、またパキスタンとアフガニスタンの統治支援にリー ダーシップを発揮したことは、こうした活動における日本の多大な貢献を具体的に表わすものです。イランの危険な核開発計画の阻止であれ、国連平和維持活動 への支援であれ、日本と米国は、協力して共通の課題に取り組むことによって、さらに効果的な役割を果たすことができます。

 締めくくりとして、本日私は、主に、日米の安全保障同盟の重要性とその同盟が提供する信頼できる抑止力について話してきましたが、この同盟が、さ らに大きな目的にかなうものであるからこそ重要である、ということを常に忘れてはいけません。その目的とは、平和と安全保障だけでなく、人権、民主主義、 そして法の支配を推進することです。究極的には、私たちの軍事力と軍事目標の基盤となっているのは、そうした広範な目的です。そして、日米同盟は、歴史 と、私たちの共通の価値観と、共通の世界観に深く根差しているために、その最も基本的かつ重要なレベルにおいて成功することができるのです。

 日米がわずか65年前に耐え忍んだ悲惨な戦争以来、私たちは長い道のりを共に歩んできました。そしてそれぞれの国民は、次第に深まる日米の文化・ 教育・経済上のつながりから多大な恩恵を受け、本日私がお話ししたような安全保障政策を超えて日米のパートナーシップを拡大してきました。私たちは決して そのことを忘れてはなりません。そして、私たちには、こうしたその他の分野でなすべきことが多く残っています。日米両国はまだたくさんの世界的・地域的な 課題に直面しており、そうした課題に協力して取り組まなければなりません。安保条約締結50周年を迎える今年、私たちは、この同盟を維持するだけでなく、 さらに強化するために、将来と、まだ残っている仕事に集中して取り組み続けなければなりません。日本も、米国も、決して現状に甘んじることがあってはなり ません。

 最後にひとつ申し上げておきたいことがあります。戦後、この2カ国間に何らかの問題が生じた時には、私たちは常に協力の精神でこれに対処してきま した。そして日米関係はそれ以前にも増して強力なものとなってきたのです。1960年には、私たちが今年50周年を祝う安全保障条約の署名と批准をめぐっ て、大きな混乱がありました。それにもかかわらず、この条約は、地域の安全保障と経済繁栄に対する米国の取り組みの基盤となっています。日米のパートナー シップには、いかなる課題が発生しようとも、それに対処する強さと回復力があることを、歴史が実証しています。私は、駐日米国大使として、日本の指導者の 方々と協力し、日米の中核的な安全保障パートナーシップを強化するとともに、両国の協力を幅広い世界規模の課題に広げる共同の取り組みを倍加することに よって、この記念すべき年を祝うことができると期待しています。日米の不朽の同盟と友好関係を通じて、両国の安全がますます強化され、この地域と世界がよ り安全になるでしょう。そして私たちは、わずか50年前に締結されたこの歴史的な条約のビジョンを実現し、さらに前進し続けていくことでしょう。

 ありがとうございます。

米国大使館HP『政策関連情報』http://japanese.japan.usembassy.gov/j/policy/tpolicyj-translations.html


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