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認知症の母殺害、54歳男に猶予刑…温情判決に法廷は涙あふれる

2006 年 7 月 22 日(サンスポ)


「もう生きられへんのやで」「そうか、あかんか。一緒やでおまえと」-認知症の母親(86)と心中を図って承諾殺人罪などに問われながら、献身的な介護ぶりなどから検察が異例の“情状陳述”をした京都市の無職、片桐康晴被告(54)に京都地裁は21日、懲役2年6月、執行猶予3年(求刑懲役3年)を判決した。裁判官は「介護の苦しみ、絶望感は言葉で言い尽くせない」「母のためにも幸せに生きてください」と励ましの言葉を添え、被告も傍聴席も涙にむせんだ。

【異例の展開】

4月の初公判。検察は罪状をあばくはずの冒頭陳述で、介護をめぐる被告の孤独で過酷な生活、母を慈しむ心情と親子の絆など、逆に被告に有利にさえなる状況を包み隠さず再現。傍聴人だけでなく、裁判官さえも涙を浮かべ聞き入った。その後も証人から被告への同情証言が相次ぐ異例の展開で、注目を集めた。

判決で東尾龍一裁判官は「昼夜介護した苦しみや悩み、絶望感は言葉では言い尽くせないものがあった」と指摘。「命を奪った結果は取り返しがつかず重大だが、社会で生活する中で冥福を祈らせることが相当」と執行猶予の理由を説明した。

Tシャツにズボン姿の片桐被告は背筋を伸ばして聞き入り、判決理由で献身的な介護ぶりに言及されると、うつむいて涙をぬぐった。「命の尊さへの理解が被告に欠けていたとは断定できない」と裁判官。傍聴席からもすすり泣きが聞こえた。

【自己犠牲の末】

「母の介護はつらくはなかった。老いていく母がかわいかった」。片桐被告は語っていた。

一人息子の被告は、西陣織の糊置き職人だった父親の弟子になったが、織物不況で35歳のときに勤めるようになった。平成7年夏、父親が亡くなり、母親も認知症の兆し。結婚はしておらず、母親の世話はすべて引き受け、夜中も母のトイレに1時間おきに付き添い、睡眠不足のまま出勤する生活が5年続いた。

しかし母親の症状は悪化し、昨年6月には徘徊して警察に保護される。派遣社員だった被告は「迷惑をかけたくない」と、介護のために休職した工場を退職。失業保険も切れると生活は困窮、今年1月にはいよいよ家賃も払えなくなった。

職人の父から「人様に迷惑をかけるな」と厳しくしつけられた被告は「命をそぐしかない」と心中を決意。1月31日、「最後の親孝行を」と母親を車いすに乗せて京都市の中心部など思い出の地を巡った。そのまま桂川べりで夜を明かす。2月1日朝。「もう生きられへんのやで。ここで終わりやで」と話しかける被告に、母は「そうか、あかんか。康晴、一緒やで。お前と一緒や」。「すまんな、すまんな…」と被告、「康晴はわしの子や。(おまえが死ねないなら)わしがやったる」と母。この言葉で母の首を絞めた。自らの首も包丁で切ったが、母の遺体の横に倒れているのを発見され、一命を取りとめた。

これまでの公判で被告は「母の命を奪ったが、もう一度母の子に生まれたい」と打ち明けていた。

【行政に苦言】

判決で東尾裁判官は「献身的な介護を受け、最後は思い出の京都市内を案内してもらい、被告に感謝こそすれ決して恨みなど抱かず、厳罰も望んでいないだろう」と、母親の心情を推察。

半面、「公的支援が受けられず経済的に行き詰まった」と行政対応に苦言を呈した。被告は昨夏、何度か社会福祉事務所に生活保護の相談に行った。しかし「頑張って働いてください」などと門前払いされた。この対応に「被告が『死ねということか』と受け取ったのが本件の一因とも言える」と裁判官。「介護保険や生活保護行政のあり方も問われている」と強調した。

【励ましの言葉】

「痛ましく悲しい事件だった。今後あなた自身は生き抜いて、絶対に自分をあやめることのないよう、母のことを祈り、母のためにも幸せに生きてください」

裁判官が最後にこう語りかけると「ありがとうございました」と頭を下げた被告。判決後、弁護士に「温情ある判決をいただき感謝しています。なるべく早く仕事を探して、母の冥福を祈りたい」と語ったという。

★深刻化する“老老”介護

夫婦や親子間で介護疲れなどによる殺害、無理心中に至る悲劇が急増。とくに介護する側も体力や経済力が弱くなる“熟老”“老老”介護が社会問題化している。

今月10日には介護疲れで認知症の母(95)を絞殺した無職の息子(69)に千葉地裁が懲役3年、保護観察付き執行猶予5年を判決したばかり。11日には前橋市で、寝たきりの夫(77)を妻(58)が絞殺した容疑で逮捕された。昨年7月に名古屋市で認知症の妻(74)を絞殺した夫(67)は、今年1月に執行猶予判決を受けたが、4日後に妻の後を追った。

» 温情判決 記憶喪失で万引の男に 京都新聞


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