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朝鮮事情

シャルル・ダレ

平凡社東洋文庫1979年 シャルル・ダレ著、金容権訳『朝鮮事情』より。
主としてダブリュイ主教(1866年ソウルで処刑された)が収集した資料を基礎に、他の宣教師の手紙等をまとめ、朝鮮がどのような国であるかを紹介している。



【住居】
「貴方はみすぼらしい茅屋というものを見たことがあるでしょう。では貴方の知っている最も貧しい茅屋を、その美しさと強固さの程度を更に落として想像してみてください。するとそれがみすぼらしい朝鮮の住まいについての、殆ど正確な姿となるでしょう。」

「2階建ての家は探しても無駄です。そのようなものを朝鮮人は知らないのです」

【道路】
「道路は理論的には少なくとも3等級に分けられています。私が王の道と翻訳した第1級の道路は、普通4人が並ぶに十分な広さです。地方には車両がないので、歩行者と乗馬者には丁度ふさわしい広さです。……しばしば大きな石や岩塊によって道路が3/4に減っていたり、雨によって道の一部が流されたりしています。勿論誰もそのような不都合を修復しようとする者はいません。……主要な道路としてはソウルから中国の国境に到るものがあります。もう一つ長さは8リューしかありませんが、かなり立派なものに宮廷から王陵に通じるものがあります。

2級道路について言えば、その状態と道幅、それに交通の便利さは日ごとに変化します。悪い小径としか見えなくても「これもまた大路ですか」と聞くと、人々はきっぱり「そうです」と答えます。……

しかし3等道路については何と言ったらいいでしょう。その広さはせいぜい30センチで、道案内人の聡明さの如何によって見えたり見えなかったりするし、水田を横切るときはしばしば道は冠水しており、山中では絶壁に肌が触れるのです。

橋について私は2種類のものを知っています。一つは小川の所々に大きな石を投げ込んで作ったものです。これが最も一般的なものです。もう一つの種類は、川に杭を打ち込んで作ったものです。これは上に板のようなものをかぶせて土でおおってあり、しばしば穴があいているが、それでも橋の形をしています。夏にはよくあることですが、水かさが増すと川の氾濫によって、すべての橋は流されるか水に漬かるかしてしまいます。……最後にソウルには石橋が一つありますが、壮麗なもので、おそらくこの国の逸品の一つでしょう。少しでも大きな川は舟で横切ります。」

【商業】
「自分の家に店を開いている商人はごく僅かで、殆どすべての取引が定期市、即ち場市で行われている。この定期市は政府によって指定されており、地域(ほぼ郡県の範囲)毎に5つ立ち、さまざまな町や都市で開かれている。この5つの場所で、それぞれ定期市が5日ごとに開かれている。つまり今日はここ、明日はあそこと、いつも同じ順序で巡回し、毎日その地域のいずれかの場所で定期市が開かれている。商品の為にはテントが張られている。

商人が用いる度量衡の単位は、穀物に対しては合である。100合が1斗で、20斗が1石である。液体については鉢で量る。重量の単位は中国の斤で、中国製の秤だけが使用されている。長さの単位は尺であるが、地方によって異なるのでこれは商人の言いなりになってしまう」

【通貨】
「商業の発達に大きな障害になっているものの一つに、不完全な貨幣制度がある。金貨や銀貨は存在しない。これらの金属を塊にして売ることは、多くの細かい規則によって禁止されている。……合法的に流通している唯一の通貨は銅銭である。その小さな銅銭には亜鉛か鉛が混じっており、その価値はおよそ2或いは2.5サンチームである。それは真中に穴が明いており、一定の数を集めて紐を通す……。相当量の支払いをするためには、一群の担ぎ人夫が必要となる。というのは百両或いは百通銭(約200フラン)は、一人分の荷物になるからである。北部地方ではこの貨幣すら流通していない。……

朝鮮の金利は法外である。年3割の利子で貸し付ける人は、ただで与えるのも同然と思っている。最も一般的なのは5割、6割で時には10割もの利子が要求される。……

最近では次々に貨幣が鋳造され、それがだんだんと悪質になっている。昔の銭は銅製で、僅かに不純物が混じっていたのに対し、新しい貨幣は殆ど鉛になって急速に質が落ちている。しかしそこで利益を得るのは政府ではない。政府は必要なだけの銅を鋳造業者に供給するが、業者は銅を鉛に代えて、戸曹判書(大蔵大臣)或いは特別に検証の役にあたる官吏と利得を分けあうのである。」

【官吏と徴税】
「官吏の地位は公然と売買され、それを買った人は当然その費用を取り戻そうと努め、その為に体裁をかまおうとさえしない。上は道知事から最も下級の小役人に至るまで、徴税や訴訟やその他のすべての機会を利用して、それぞれの官吏は金を稼ぐ。国王の御使(おさ、監察官)すらも極度の破廉恥さでその特権を利用している。」

「朝鮮の宮廷は非常に貧しく、国庫はさらにもっと貧弱です。宦官やその仲間である国王の妾、宮中の侍女たちは、もし大臣の地位や、又時には他の幾つかの高官職を売って得る金がなくなれば、きっと打撃を蒙るでしょう。従って権力の座にあるものは、贈り物を次々と与えては機嫌をとり、これらすべての貪欲な吸血鬼をいつも満腹にしておかなくてはなりません。特に今までに増して国王の寵愛を獲得しようとする時には、巨額の金が必要になります。

所が金炳国(きむぴょんごく・国王の義兄弟)は、幾つかの官職をかなり高く売り、朝鮮人参の専売権を引き受けたのだが、それでも尚必要とされるすべての人々に富を行き渡らせて、地位を買収するだけの金を得ることができなかったのです。昨年の真冬に、金炳国のおかげで多くの地位と富を得た1人の男が金炳国を訪ねてきて、「最高権力を握りたいとは思わないですか」と尋ねたのです。「答えるまでもないでしょう。しかしそれを得るためにはとにかく金がいるのというのに、私にはそれがありません」と国王の義兄弟は答えました。「それでは私に王国の南部地方の租税を徴収する職を下さい。そうすれば必要なお金を手に入れて差し上げましょう」「よろしい」と大臣は答え、すぐさまその男の指示に従って対策を講じたのです。南部地方の租税は主に米で、それは海路を通じてソウルに運搬されていました。くだんの男はこれらの米をみんな集めて船に積み込み、中国まで運搬し、朝鮮で売る4倍の価格で売りさばいたのです。帰国した彼は租税に必要な米を再び買いととのえました。こうした値段の差額によって、国王の義兄弟は、宮中にあふれている一群の宦官と侍女の支持を一手に獲得することができたのです。そして彼は自分の競争相手を罷免し、すべての権力を独占しました。いかなる穀物を輸出しても、それは極刑にかけられる犯罪になります。ましてや王室の維持費のために徴収された米を売るものは許し難い国事犯なのです。この密輸出が原因となって、とうとうこの年は幾つかの道にとっては深刻な飢えの年となったのです。しかし彼にとって何の関係があるでしょう。彼が権勢を得、豊になった以上、誰が彼の行状を問い正そうとするでしょうか」

【奴隷】
「奴婢の数は今日では昔より遙かに少なくなっており、尚減りつつある。少なくとも中部地方の有力な両班の家以外では、もう奴婢を殆ど見かけることはない。

「最も蔑視されている同業者組合は、牛の屠殺業者(白丁)のそれである。……屠殺業者は誰が見ても奴婢よりも更に低い別個の1階層をなしている。彼らは一般の村落内に住むことが出来ないので、彼らを忌み嫌っている村人たちの圏外に住んでおり、自分たちの社会だけで通婚している。……話のついでに注意を促しておくが、一般人の蔑視は屠殺業者にだけ向けられていて、肉の販売を目的とする肉屋には何ら関係はない。」

【取り調べ、監獄】
「ある日1人の若い常民が、両班の子弟と喧嘩している内に、誤って斧で脇腹を一撃して殺してしまった。殺人犯である常民は、即座に捕らえられ守令の前に連行された。証人の中には被害者の父親もいた。一言二言三言訊問した後、守令は斧を持ってこさせてその父親に手渡し、縛られたまま地面に倒れている殺害者を指さしながら、「こやつが、どのようにお前の息子を打ち殺したか、見せてみよ」と言った。守令はその父親に犯人をその場で殺害させ、煩わしいこの事件から早く逃れてしまいたかったのだ。」

「大きな邑には、捕卒から報酬を受けている盗賊の頭目が数人いつもおり、人々が彼らの行為に耐えられなくなった時か、守令がいつになく強い脅しをかけた時に、法廷に突き出されてくる。彼らを逮捕する時にも、比較的軽い犯罪については合意が出来ていて、それから捕卒が告発し、被告が是認する。重大な問題に関しては、すべて堅く沈黙が守られ、真犯人が自分の犯罪に対してそれ相応の懲罰を受けるようなことは稀である。のみならず政府は必要なときに備えて大胆で図太い補助者を自らの手元に確保しておくため、世間に名の知れた数多くの泥棒を自由にさせておく。」

「許されている拷問が、未だ数多く残っている。次に主要なものを挙げてみよう。(詳細省略)
1.棍杖(長さ1.6-2メートル、幅20センチ、太さ4.5センチ位の棍杖で殴る)
2.平棒、笞、棒杖
3.骨の脱臼と屈折(3種類ある。その内の1例は、両膝と両足の親指を縛り、その間に2本の棒を入れ、反対方向に引っ張る)
4.吊り拷問
5.鋸拷問或いは足の鋸引き
6.3稜杖(木製の斧若しくは鉞で肉片を切開する拷問」
 


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