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渋沢家の家憲

渋沢栄一

幕末から大正初期に活躍した日本の武士(幕臣)、官僚、実業家。第一国立銀行や東京証券取引所などといった多種多様な企業の設立・経営に関わり、日本資本主義の父といわれる。



第一則 処世接物の綱順

1.常に愛国忠君の意を厚うして、公に奉することを疎外にすべからず。
2.言忠信を主とし、行篤敬を重んじ、事を処し人に接するには必ず其の意を誠にすべし。
3.益友を近け、損友を遠け、いやしくも己にへつらう者を友とすべからず。
4.人に接するには必ず敬意を主とすべし、宴楽遊興の時といえども、敬礼を失うことあるべからず。
5.凡そ一事を為し、一物に接するにも、必ず満身の精神をもってすべし、瑣事たりとてもこれをかりそめに付すべからず。
6.富貴に驕るるべからず、貧賎をうれうべからず、唯知識を磨き徳行を修めて、その誠の幸福を期すべし。
7.口舌は禍福の因って生ずる所の門なり、故に片言隻語といえども、必ずこれをみだりにすべからず。


第二則 修身斉家の要旨

1.父母は慈にして、よくその子弟を教え、子弟は孝にして、よくその父母に事え、夫は唱え婦は随て、各々その天職を、各々その天職を尽くすべし。
2.よく長幼の序を守り、互に愛敬して、敢て憎嫉紛争の事あるべからず。
3.勤と倹とは創業の良図、守成の基礎たり、常にこれを守りて、いやしくも驕り且つ怠ることあるべからず。
4.凡そ業務は正経のものを撰みてこれに就くべし、いやしくも投機の業、又は道徳上賤むべき務に従事すべからず。
5.凡そ事を起こすには、先ずその始を慎み、既にこれに処しては、勉めて忍耐恒久の念を厚うし、みだりにこれを変更し、又はこれを放却すべからず。
6.慈善は人の貴ぶべき所のものなり、故に縁威故旧の貧困なる者は、勉めてこれを救恤すべし、唯々その方法を鑑みて、これをして独立自活の念を失わしむべからず。
7.家僕婢奴は篤実なる者を撰むべし、むしろ魯鈍なるも浮薄妄弁なる者を使用すべからず。
8.家僕婢奴を遇するには、よくこれを愛憐撫恤して、中心奉公の念を厚うせしむべし、然れども恩愛に押れて僣上怠慢の心を生ぜしむべからず。
9.冠婚葬祭の儀式及び通常招待等の事あるも、勉めて華美の風を避け、その分に隨てこれを質素にすべし。
10.凡そ同族たるものは、同族会議において決議したる事項は、瑣事たりとも、必ずこれに違背すべからず、同族に関すると一身に関するとを問わず、事の重大なるものは必ず同族会議において決議の後これを行うべし。
11.毎年一月の同族会議において、家法朗読式を行うに際し、同族中智識徳行ある年長者、この家訓を朗読し更にこれを講演して、同族は必ずこれを遵守する事を誓うべし。


第三則 子弟教育の方法

1.子弟の教育は同族の家道盛衰に関する所なり、故に同族の父母は最もこれを慎みて、教育の事を怠るべからず。
2.凡そ生児その幼稚の間は、身体健全にして、品行賤しからざる保姆を撰みて保育せしめ、父母たるもの常にこれを監督すべし。
3.父母たるものは居常その言行を慎み、子弟の模範たることを務め、且つ家庭の教育を厳正にして、子弟の性質を怠惰放逸ならしむべからず。
4.学校の教育は、その子弟身体の強弱を計り、寛厳其宜に従ってこれを処すべし。
5.子弟満八歳を超ゆれば、男子は保母を止めて、厳正なる監督者を付すべし。
6.凡そ子弟は幼少の時において、世間の難苦を知らしめ、独立自活の気象を発達せしむべし、且つ男子は外出の時は成るべく歩行せしめて、その身体の健康を保護すべし。
7.凡そ子弟満十歳以上に達すれば、自己の小費を弁ずるために、少額の金員を給与するを得べしといえども、よくその分に応じてその額を定め、これをして以て会計の注意を喚起せしむる事を勉むべし。
8.凡そ子弟には卑猥なる文書を読ましめ、卑猥なる事物に接せしむべからず、又芸子芸人の類を近接せしむべからず。
9.男子十三歳以上に至らば、学校休暇中に、行状正しき師友と共に各地を旅行せしむべし。
10.凡そ男子は成年に達する迄は大人と区別して、これを取扱うべし、且つその衣服は必ず綿物を用い、器具の類も勉めて質素を主とすべし。唯々女子は外出、又は来客に接する等の事ある時は、絹布を用ゆるを得。
11.男子の教育は勇壮活発にして、常に敵愾の心を存し、よく内外の学を修め、かつその理を講究して、事にありては、忠実にこれを遂ぐるの気象を養わしむべし。
12.女子の教育はその貞潔の性を養成し、優美の質を助長し、従順周密にして、よく一家の内政を修むる事に訓練せしむべし。


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