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2011年6月1日IAEA調査団暫定的要旨

国際原子力機関(IAEA)

2011年6月1日



(仮訳)

マグニチュード9の地震であった2011年3月11日の東日本大地震は,日本の東海岸を直撃した数度に亘る津波を発生させ,そのうち最大のものは,宮古市姉吉における38.9メートルに及んだ。

地震及び津波は,日本の広い地域において広範囲の荒廃をもたらし,14,000名以上の死者を出した。これに加え,少なくとも10,000名の人々が今なお行方不明であり,町や村が破壊されたことで多くの避難者を出した。日本のインフラの多くが,この荒廃や喪失により損害を受けた。

他の産業と同様,いくつかの原子力発電施設が激しい地表の振動及び大規模な複数の津波により影響を受けた。東海,東通,女川並びに東京電力の福島第一及び福島第二である。これらの施設の運転中のユニットは,原子力発電所の設計の一部として備えられていた地震を検知するための自動システムにより,停止に成功した。しかし,大きな津波は,程度の差はあれ,これらの施設すべてに影響を与えた。その最も重大な結果が,東京電力福島第一で発生した。

地震発生時,施設外のすべての電源が失われたものの,東京電力福島第一の自動システムは,地震を検知した際,すべての制御棒を3機の運転中の炉に挿入させることに成功し,利用可能なすべての緊急ディーゼル発電システムは設計どおり作動した。大規模な津波の第一波は,東京電力福島第一のサイトに地震発生から約46分後に到達した。

津波は,最大5.7メートルの津波に持ち応えるよう設計されたに過ぎなかった東京電力福島第一の防御施設を圧倒した。同日,この施設に衝撃を与えた波のうち大きなものは14メートル以上と推定された。津波は,これらのユニット奥深くに到達し,緊急ディーゼル発電機の1台(6B)を除くすべての電源の喪失を引き起こし,施設内外に利用可能な電力源がなくまた外部からの支援の希望が殆どない状態をもたらした。

東京電力福島第一における全交流電源喪失と,津波の衝撃は,1~4号機のすべての機器とコントロール・システムの喪失をもたらし,緊急ディーゼル発電機6Bは,5,6号機間で共有される形で非常電源を供給する状況になった。津波及びそれに伴う大きながれきは,東京電力福島第一において,ヒートシンクの喪失も含め,広範囲にわたり多くの建物,戸口,道路,タンクその他のサイトのインフラの破壊を引き起こした。運転員は,電源も,炉の制御も,機器もない状態に加え,施設内部及び外部との通信システムも甚大な影響を受けるといった,壊滅的で先例のない緊急事態に直面した。彼らは,暗闇の中で,機器やコントロール・システムが殆どない状態で6機の炉及び付設された燃料プール,共用使用済燃料プール,乾式キャスクを用いた貯蔵施設の安全を確保するために作業しなければならなかった。

原子炉ユニットを制御又は冷却する手段がない状態で,地震発生時まで運転中であった東京電力福島第一原子力発電所の3つの原子炉ユニットの温度は通常発生する崩壊熱によって急速に上昇した。運転員が,制御能力を取り戻して原子炉及び使用済燃料の冷却を行うために勇敢でかつ時には前例のない取組を実施したにもかかわらず,燃料への重大な損傷及び一連の爆発が生じた。これらの爆発により,敷地において更なる損傷が発生し,運転員が直面する状況を一層困難かつ危険にした。更に,放射能汚染が周囲に広がった。これらの事象は,暫定的に国際原子力事象評価尺度(INES)で最も高い評価に分類されている。

今日まで,今回の原子力事故による放射線被ばくの結果として人が健康上の影響を受けた事例は報告されていない。

日本政府との合意により,国際原子力機関(IAEA)は東京電力福島第一原子力発電所における事故に関する事実を収集し,初期的な教訓を特定し,これらの情報を世界の原子力コミュニティに公表するために暫定的な調査を行った。そのために,2011年5月24日から6月1日まで専門家チームがこの事実調査を実施した。調査の結果は,2011年6月20日から24日までウィーンのIAEA本部で行われる原子力安全に関するIAEA閣僚会議に報告される。本稿は,日本政府に対し直ちに結果を伝えるための暫定的な要旨である。

IAEAによる調査期間中,原子力専門家からなる調査団は,全ての関係者から素晴らしい協力を得ることができ,多数の関係省庁,原子力規制当局及び原子力発電所の事業者から情報を得ることができた。また,調査団は原子力発電所の状況及び損傷の規模を完全に把握するため,東海原子力発電所並びに東京電力の福島第一発電所及び福島第二発電所を訪問した。右訪問により,専門家は運転員と話すことができ,また現在進行中の復旧・改修作業を視察することができた。

調査団は証拠を収集し,暫定的な評価を行うとともに暫定的な結果及び教訓を得た。これらの暫定的な結論及び教訓は,日本の専門家及び政府関係者と共有され,議論された。これらは,大きく分けて外的事象のハザード,シビアアクシデント・マネジメント及び緊急に対する準備の3つの広い専門分野に該当する。これらは,原子力安全を改善するための教訓を得る上で,日本の原子力コミュニティー,IAEA及び世界の原子力コミュニティーにとって関連がある。

主な暫定的な調査結果及び教訓は,以下のとおり

● 日本政府,原子力規制当局及び事業者は,世界が原子力安全を改善する上での教訓を学ぶことを支援すべく,調査団との情報共有及び調査団からの多数の質問への回答において非常に開かれた対応をとった。

● 非常に困難な状況下において,サイトの運転員による非常に献身的で強い決意を持つ専門的対応は模範的であり,非常事態を考慮すれば,結果的に安全を確保する上で最善のアプローチとなった。 これは,非常に高度な専門的な後方支援,就中,サイトで活動している作業員の安全を確保するためのJビレッジにおける対応が大きな助けとなっている。

● 避難を含め,公衆を保護するための日本政府の長期的な対応は見事であり,非常に良く組織されている。公衆及び作業員の被ばくに関する適切且つ時宜を得たフォローアップ計画及び健康モニタリングは有益であろう。

● 損傷した原子炉の復旧のために計画されたロード・マップは重要であり認知されている。新たな状況が発見されればその修正が必要となるが,国際協力による支援を受けることも可能である。(ロード・マップは,)サイト外で放射線の放出により影響を受けた地域の救済をもたらし,それにより避難した人々が通常の生活を取り戻すことを可能にするような,より広範な計画の一部と捉えるべきである。これにより,かような極限的な原子力の事象に対応する上で何を成し遂げ得るのかを世界に示すことになる。

● いくつかのサイトにおける津波というハザードは過小評価されていた。原子力発電所の設計者及び運転者は,すべての自然のハザードの危険性を適切に評価し,これに対する防護措置を講ずるべきであり,新たな情報,経験や理解を踏まえて危険性についての評価及び評価手法を定期的に更新すべきである。

● 極限的な外部事象,特に大洪水のような共通性のある事象に対し,深層防護,物理的な分離,多様性及び多重性の要件が適用されるべきである。

● 原子力規制の制度は,極限的な外的事象に対し,それらの定期的な見直しを含めて適切に対処でき,また,規制の独立性及び役割の明確さがIAEA安全基準に沿ってあらゆる状況において維持されるようなものとすべきである。

● 外的事象の深刻で長期的な組み合わせについては,設計,運転,資源の調達及び緊急時対応において十分に考慮されるべきである。

● この日本の事故は,適切な通信手段,重要なプラント・パラメーター,コントロール及びリソースを十分に備えた敷地内の堅固な緊急対応センターの有用性を立証している。このような施設は,潜在的にシビア・アクシデントが起きる可能性のあるすべての主要な原子力施設に設けられるべきである。さらに,シビア・アクシデントの状況に対して重要な安全機能をタイミング良く回復させるため,簡単で有効且つ丈夫な設備が利用できるようにすべきである。

● 水素がもたらすリスクは詳細に評価され,必要な緩和システムが提供されるべき。

● 緊急時対応は,就中初期段階の対応は,シビア・アクシデントにしっかりと対応できるように設計されるべきである。

IAEA調査団は,国際的な原子力コミュニティに対し,世界の原子力安全について学び,これを改善することを追求すべく,福島の事故によって生み出されたこの比類ない機会を活用することを要請する。 (了)


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