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帝釈所問経(サッカパンハ・スッタンタ)

仏教



目次

第一章 |  第二章 |  第三章

 

第一章

あるとき、わたしは、このように聞いた。

ある日のこと、仏陀は、ラージャグリハの、
ヴェーディヤカの山中に、止まっておられた。
それを見た、帝釈天は、ガンダッバに命令した。

「洞窟に居られる、仏陀を訪ねたいと思う。
パンチャシカよ、私より先に尋ねて来なさい。
汝の歌声で、尊師を瞑想から呼び戻しておくれ。」

音楽の神、ガンダッパの、パンチャシカは、
神々の王、帝釈天である、サッカに応えると、
尊師の所に赴き、美しい声で、愛の歌を唄った。

「太陽の輝きを有する、愛しいバッダーよ、
私は、あなたの父、ティンパルに感謝しよう。
愛しい君を、この世に、導いてくれたのだから。」

「君は、暑い日に吹き抜ける、風のようだ。
渇いている人にとって、冷たい水のようだし、
求めている人にとっての、妙なる法のようだよ。」

「私の愛は、とても強い、私は君が欲しい。
こんな素晴らしい娘を、子に持つ、賢き人よ。
わたしは、あなたの父に、心の底から敬礼する。」

このように、歌い掛けると、仏陀は目覚めた。
そして、パンチャシカに対し、こう語り掛けた。

「汝の歌声と、琵琶の音が、調和している。
パンチャシカよ、今日は、何の用で来たのか。
汝の主人、サンカから、何を託かって来たのか。」

それを聞くと、目の前に、サンカが現れた。
そのとき、岩の洞窟が、広がり明るくなった。
恭しく挨拶をすると、彼は、このように尋ねた。

「世尊よ、幾つか、尋ねたい事があります。
ゴーピカという名の、在俗信女が居ましたが、
彼女は、我が息子として、生れ変って来ました。」

「息子は、釈迦牟尼の比丘であった者達が、
身分の低い、ガンダッバに生まれたのを見て、
楽に溺れているのを見て、こう叱責したのです。」

『親愛なる比丘の方よ、どうしたのですか。
私は、女性でありながら、男性のように生き、
三宝を供養して、三十三天に生まれ変りました。』

『供養を受けた者が、奉仕を為す神となり、
奉仕を為した者が、供養を受ける神となった。
恥を知りなさい、この関係から抜け出しなさい。』

「このように、我が息子に叱り付けられて、
彼らは、心から恥じ、梵輔天に転生しました。
ええ、神々の主である、私の頭上を飛び越えて。」

「世尊よ、彼らに、追い抜かれたのを見て、
恥ずかしい事ですが、私は嫉妬を覚えました。
それを、心から恥じて、仏陀に尋ねたいのです。」

そのとき、仏陀には、このような思いが生じた。

“ああ、このサッカは、とても純粋である。
私は、彼の求める質問には、すべて答えよう。
彼の純粋な心ならば、速やかに理解するだろう”

「帝釈天、サッカよ、何でも質問するが良い。
汝のために、私は、如何なる問いにも答えよう。」

 

第二章

「世尊よ、天人、修羅、人間等の生き物は、
互いに好き嫌いを持って、暮らしていますが、
これは、如何なる煩悩を有しているからですか。」

「帝王よ、天人、修羅、人間等の生き物は、
互いに好き嫌いを持って、暮らしてしまうが、
これは、貪瞋痴の煩悩を有しているからである。」

「世尊よ、それでは、この貪瞋痴の煩悩は、
つまり、三毒とは、何を示しているのですか。
どういう仕組で、好き嫌いが現われるのですか。」

「帝王よ、無明に嵌まると、善悪が生じる。
ここで、無明とは痴、善は貪、悪は瞋である。
即ち、痴に覆われると、善と悪の識別が生じる。」

「世尊よ、それでは、この善と悪の識別は、
何に拠って、何を因として、生じるのですか。」
「帝王よ、欲が生じると、苦と楽が別れていく。」

「世尊よ、それでは、良くを求める欲とは、
何に拠って、何を因として、生じるのですか。」
「帝王よ、行が生じると、欲を積み重ねていく。」

「世尊よ、それでは、欲を積み重ねる行は、
何に拠って、何を因として、生じるのですか。」
「帝王よ、論や想を繰り返す、無明の闇である。」

「世尊よ、それでは、この無明を破るには、
繰り返しを越えるには、何を求めるのですか。
何を求めれば、苦楽を越えられるのでしょうか。」

「帝王よ、楽が生まれると、苦が埋まれる。
欲を求めると、苦楽が分かれ、総じて苦しみ、
欲を越えるとき、苦楽が消えて、総じて楽しむ。」

「すなわち、求める欲に、二つの欲がある。
欲に塗れる欲は、求めると、総じて苦になり、
欲を越える欲は、求めるほど、総じて楽になる。」

「欲に塗れる欲とは、如何なるものですか。」
「身と口と心に於いて、楽しみを求めるほど、
身と口と心に於いて、苦しみが増すことである。」

「欲を越える欲とは、如何なるものですか。」
「身と口と心に於いて、楽しみを離れるほど、
身と口と心に於いて、苦しみが減ることである。」

「では、どのように、楽を求めるのですか。」
「帝王よ、眼と耳と鼻と舌と身と法に於いて、
楽しみの裏に、苦しみが有ることを、認めない。」

「では、どのように、楽を離れるのですか。」
「帝王よ、眼と耳と鼻と舌と身と法に於いて、
楽しみの裏に、苦しみが有ることを、見とめる。」

「では、楽の求め方は、幾つ有るのですか。
幾つも有るのですか、一つしか無いのですか。」
「山を降り方が、幾つも有るよう、幾つも有る。」

「では、楽の越え方は、幾つ有るのですか。
幾つも有るのですか、一つしか無いのですか。」
「山の登り方が、幾つも有るよう、幾つも有る。」

「では、楽を越えた地は、幾つ有りますか。
幾つも有るのですか、一つしか無いのですか。
「山の頂が、一つしか無いよう、一つしか無い。」

 

第三章

このように聞いて、サンカは、感謝して応えた。

「世尊よ、まさに、その通りで御座います。
尊師の回答を聞いて、私の疑念は消えました。
私の胸に刺さった、疑の矢は抜き取られました。」

「その昔、神々と修羅の戦争がありました。
その戦争に於いて、我々は修羅に勝ちました。
世尊よ、今の喜びは、その時の喜びと同じです。」

「しかし、決定的に、異なる所があります。
戦争に撃ち勝つ喜びは、欲に塗れる欲ですが、
疑念に打ち克った喜びは、欲を越える欲でした。」

「世尊よ、神々が、梵天を尊敬するように、
我々は、世尊を、尊敬して、帰依し奉ります。
あなたは、この三界を通して、最も尊い方です。

かの尊師、応供である、仏陀に帰依し奉ります。
かの尊師、応供である、仏陀に帰依し奉ります。
かの尊師、応供である、仏陀に帰依し奉ります。」

それから、サッカは、パンチャシカに、言った。

「パンチャシカよ、良くぞ、助けてくれた。
汝の掛け渡しにより、私は仏陀に巡り会えた。
私の掛け渡しによって、汝を彼女に引き会そう。」

このとき、サッカには、真理の眼が生じた。
そして、神々の王が、世の無常を悟ったため、
他の八万の神々に、真理の芽が生じたのである。


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