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愛生経(ピャジャーティカ・スッタ)

仏教

愛より生じ、愛が引き起こすものとは



目次

第一章 |  第二章 |  第三章 |  第四章

 

第一章

あるとき、わたしは、このように聞いた。

ある日のこと、仏陀は、サーヴァッティの、
アナータピンディカ園に、止まっておられた。
そこには、息子を亡くした、長者が住んでいた。

その長者は、一人息子を、愛していたため、
悲しみの余り、食べ物を摂れなくなっていた。
その様子を見た、仏陀は、彼に向かって言った。

「愁、悲、苦、憂、悩は、愛着から生じる。
長者よ、愛着を断ち、苦悩の根を絶ちなさい。
愛着を断つなら、喜楽が消えて、苦悩も消える。」

「愁、悲、苦、憂、悩が、愛着から生じる。
仏陀よ、愛着を断ち、苦悩の根が消えますか。
愛着を得るから、苦悩が消えて、喜楽が生じる。」

こう言うと、長者は、怒って帰ってしまった。
帰り道に、彼の話を聞いた者は、口々に言った。

「それは、君の言っていることの方が正しい。
愛着から生じるのは、苦悩ではなくて、喜楽だ。」

それを聞いて、長者は、満足して帰って行った。

 

第二章

やがて、この話題は、王宮の中にも届いた。
それを聞いた、コーサラ国王パセーナディは、
王妃のマッリカーを呼んで、このように言った。

「愁、悲、苦、憂、悩は、愛着から生じる。
王妃よ、これが、ゴータマが、説いた教えか。」
「大王よ、仏陀が説かれたなら、その通りです。」

「お前は、いつも、ゴータマが言った事は、
自分で考えることなく、即座に認めてしまう。
王妃、マッリカーよ、お前は行け、お前は去れ。」

 

第三章

そこで、コーサラ国の、王妃、マッリカーは、
婆羅門のナーリジャンガを呼んで、こう告げた。

「仏陀に訪ねて、仏陀に尋ねてくれますか。
愁、悲、苦、憂、悩は、愛着から生じるとは、
果たして、あなたが説かれた、教えでしょうか。」

ナーリジャンガは、この言い付けに応えて、
多くの御車を随えて、仏陀の所に辿り着いた。
彼は恭しく挨拶し、仏陀に、このように告げた。

「愁、悲、苦、憂、悩は、愛着から生じる。
これは、あなたが説かれた、教えでしょうか。」
「婆羅門よ、その通りだ、この比喩を用いよう。」

「その昔、女性の母親が、死んでしまった。
母親の死により、心が錯乱して、こう言った。
我が母を見なかったか、我が母を見なかったか。」

「その昔、女性の父親が、死んでしまった。
父親の死により、心が錯乱して、こう言った。
我が父を見なかったか、我が父を見なかったか。」

「その昔、女性の兄弟が、死んでしまった。
兄弟の死により、心が錯乱して、こう言った。
我が兄を見なかったか、我が弟を見なかったか。」

「その昔、女性の姉妹が、死んでしまった。
姉妹の死により、心が錯乱して、こう言った。
我が姉を見なかったか、我が妹を見なかったか。」

「その昔、女性の子供が、死んでしまった。
子供の死により、心が錯乱して、こう言った。
我が子を見なかったか、我が子を見なかったか。」

「その昔、女性の主人が、死んでしまった。
主人の死により、心が錯乱して、こう言った。
我が夫を見なかったか、我が夫を見なかったか。」

「その昔、愛し合う男女が、引き離された。
来世に一緒になろうと、二人とも自害をした。
婆羅門よ、以上の比喩で、そう言えるのである。」

 

第四章

確かに、これは、仏陀が説いた教えだった。
このように、ナーリジャンガの報告を聞くと、
マッリカーは、パセーナディ王に、こう言った。

「彼方は、王女ヴァージリーを愛してますか。」
「ああ、私は、王女ヴァージリーを愛している。」

「ということなら、もし、死んでしまえば、
愁、悲、苦、憂、悩が、生じないでしょうか。」
「勿論だ、わたしの心に、大きな異変が生じる。」

「ということから、仏陀は、こう説くのです。
愁、悲、苦、憂、悩は、愛着から生じていると。」

「彼方は、女性ヴァーサバーを愛してますか。」
「ああ、私は、女性ヴァーサバーを愛している。」

「ということなら、もし、死んでしまえば、
愁、悲、苦、憂、悩が、生じないでしょうか。」
「勿論だ、わたしの心に、大きな異変が生じる。」

「ということから、仏陀は、こう説くのです。
愁、悲、苦、憂、悩は、愛着から生じていると。」

「彼方は、ヴィドーダバ将軍を愛してますか。」
「ああ、私は、ヴィドーダバ将軍を愛している。」

「ということなら、もし、死んでしまえば、
愁、悲、苦、憂、悩が、生じないでしょうか。」
「勿論だ、わたしの心に、大きな異変が生じる。」

「ということから、仏陀は、こう説くのです。
愁、悲、苦、憂、悩は、愛着から生じていると。」

「彼方は、王妃のマッリカーを愛してますか。」
「ああ、私は、王妃のマッリカーを愛している。」

「ということなら、もし、死んでしまえば、
愁、悲、苦、憂、悩が、生じないでしょうか。」
「勿論だ、わたしの心に、大きな異変が生じる。」

「ということから、仏陀は、こう説くのです。
愁、悲、苦、憂、悩は、愛着から生じていると。」

「妙なることだ、妃よ、稀なることだ、妃よ。
今日から、命が尽きるまで、仏法に帰依し奉る。」

そう言うと、大王は、上衣の片肌を脱い捨て、
仏陀に向かって合掌し、三度、帰依文を唱えた。

私は、世尊、応供、正等覚者に帰依し奉ります。
私は、世尊、応供、正等覚者に帰依し奉ります。
私は、世尊、応供、正等覚者に帰依し奉ります。


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