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幣宿経(パーヤーシ・スッタンタ)

仏教



目次

第一章 |  第二章 |  第三章 |  第四章 |  第五章 |  第六章 |  第七章 |  第八章

 

第一章

あるとき、わたしは、このように聞いた。

クマーラ・カッサパは、五百人の比丘衆と、
コーサラ国を遊行し、セータヴャーを訪れた。
そこで、彼らは、シンサパー林で休息を取った。

セータヴャーは、人口が多い恵まれた地で、
パセーナディ王から、コーサラの王族である、
パーヤーシが授かった、最高の拝領地であった。

その時、王族パーヤーシに、邪見が生じた。
「来世などなく、善業と悪業の果報などない。」
そして、比丘衆を、言い負かそうと考え始めた。

その頃、クマーラ・カッサパの到来を聞き、
セータヴャーの祭司は、彼を訪ねようとした。
その一行を、王族パーヤーシが見つけて言った。

「待て、祭司達よ、わたしも一緒に行こう。
あいつには、一つ言ってやらないといけない。
来世などなく、善業と悪業の果報などない、と。」

さて、王族パーヤーシは、祭司達に囲まれ、
シンサパー林に止まっている、長老を訪れた。
訪れると、恭しく挨拶して、このように言った。

「来世などなく、善業や悪業の果報はない。」
「王族よ、どうして、そのように考えるのか。」
「尊者よ、理由などない、そう私が考えるのだ。」

「王族よ、では、これは、どう考えるのか。
あの輝く日は、天にあるのか、地にあるのか。」
「尊者よ、日は、地にはないが、天にこそある。」

「王族よ、これと、同様に考えられないか。
死んだ後に続く日は、この世には見えないが、
あの世には見られると、来世は見とめられると。」

 

第二章

「何と言われようと、私は、そう思わない。」
「王族よ、そう考える根拠が、有るだろうか。」
「ああ、言われなくとも、そう思う理由がある。」

「私は、死に逝く者に、頼んだことがある。
もし、死後の世が有れば、私に教えてくれと。
しかし、未だ嘗て、誰一人、教えてはくれない。」

「王族よ、では、これは、どう考えるのか。
死に逝く人は、死に逝くのか、生き返るのか。」
「尊者よ、死に逝く人は、生き返ることはない。」

「王族よ、これと、同様に考えられないか。
死んで逝く人は、この世には生き返らないが、
まさしく、それは、生まれ変わるからであると。」

「何と言われようと、私は、そう思わない。」
「王族よ、そう考える根拠が、有るだろうか。」
「ああ、言われなくとも、そう思う理由がある。」

「わたしは、死後の世界を見たことがない。
地獄も見たことがなく、天も見たことがない。
この目で見とめない限り、決して認められない。」

「王族よ、では、これは、どう考えるのか。
見えない国は、有るだろうか、無いだろうか。
「尊者よ、見てないだけで、無いわけではない。」

「王族よ、これと、同様に考えられないか。
人々は、認めたいものしか、見とめられない。
認めようとしない限りは、見とめられない、と。」

「何と言われようと、私は、そう思わない。」
「王族よ、そう考える根拠が、有るだろうか。」
「ああ、言われなくとも、そう思う理由がある。」

「もし、本当に、天なるものが有るならば、
誰でも直ぐ死んで、天に行こうと思うだろう。
でも、死なないのは、本当は、無いからだろう。」

「王族よ、では、これは、どう考えるのか。
直ぐ死ぬ所は、地獄だろうか、天界だろうか。」
「尊者よ、直ぐ死ぬのは地、長く生きるのが天。」

「王族よ、これと、同様に考えられないか。
よく死ぬ者は、よく死ねる世に生れ変わるが、
よく生きる者は、よく生きる世に生れ変わると。」

 

第三章

「何と言われようと、私は、そう思わない。」
「王族よ、そう考える根拠が、有るだろうか。」
「ああ、言われなくとも、そう思う理由がある。」

「以前、私は、死刑に立ち会った事がある。
人が死ぬ瞬間を、わたしは間近に見たのだが、
彼の身体から、魂が抜け出すのが見えなかった。」

「王族よ、では、これは、どう考えるのか。
あなたの見る夢は、自分の夢か、他人の夢か。」
「尊者よ、私が見る夢は、他が見る夢ではない。」

「王族よ、これと、同様に考えられないか。
死んだ人は、この夢から覚め、別の夢を見る。
しかし、その夢は、この夢から、見られないと。」

「何と言われようと、私は、そう思わない。」
「王族よ、そう考える根拠が、有るだろうか。」
「ああ、言われなくとも、そう思う理由がある。」

「以前、私は、死刑に立ち会った事がある。
人が死ぬ瞬間を、わたしは間近に見たのだが、
死ぬ前は柔かい体が、死んだ後は硬くなるのだ。」

「王族よ、では、これは、どう考えるのか。
あなたが使う体は、自分の体か、他人の体か。」
「尊者よ、私が使う体は、他が使う体ではない。」

「王族よ、これと、同様に考えられないか。
死んだ人は、この体を捨てて、別の体を得る。
しかし、その体は、この体まで、動かせないと。」

 

第四章

「何と言われようと、私は、そう思わない。」
「王族よ、そう考える根拠が、有るだろうか。」
「有りません、しかし、邪見を捨てられません。」

「尊者よ、私が、来世があると言い出せば、
その日から、私は、人に何と言われることか。
王に笑われるでしょう、妃に笑われるでしょう。」

「王族よ、この話を聞いて、どう感じるか。
愚かな隊商指導者と、賢い隊商指導者が居た。
彼らは、砂漠を越えるため、多くの水を集めた。」

「さて、砂漠を進み始めてから、数ヶ月後、
砂漠の途中で、前から向って来る隊商が居た。
擦れ違い様、彼らは口々に、このように言った。

『そんなに多く、水を運ばなくても良いぞ。
ここから、先には、湖が多く続いているから。』
しかし、この湖の話は、全く嘘だったのである。」

「さて、この話を聞いた、愚かな指導者は、
湖を確かめることなく、水を捨ててしまった。
そのため、水を飲めずに、隊は死んでしまった。」

「一方、この話を聞いた、優れた指導者は、
水を捨てることなく、湖を確かめようとした。
そのため、湖が無くても、隊は死なずにすんだ。」

「王族よ、では、これを、どう考えるのか。
あなたが望む方は、愚かな方か、優れた方か。」
「尊者よ、わたしが望むのは、選れた法である。」

「王族よ、これと、同様に考えられないか。
他から笑われようとも、自ら確かめることだ。
王族よ、愚かな法である、邪見解を捨てなさい。」

 

第五章

「何と言われようと、私は、そう思わない。」
「王族よ、そう考える根拠が、有るだろうか。」
「有りません、しかし、邪見を捨てられません。」

「尊者よ、私が、来世があると言い出せば、
その日から、私は、人に何と言われることか。
王に笑われるでしょう、妃に笑われるでしょう。」

「王族よ、この話を聞いて、どう感じるか。
豚の餌として、乾いた糞を集める、男が居た。
彼は、乾いた糞を包み、頭に載せて歩いていた。」

「帰り道、雨が振り出し、糞が滲み出した。
それを見た人が、彼を指して、笑って言った。
『気でも触れたか、頭から糞を垂れ流している。』

「王族よ、では、これを、どう考えるのか。
あなたが望む方は、乾いた方か、湿った方か。」
「尊者よ、わたしが望むのは、選れた法である。」

「王族よ、これと、同様に考えられないか。
時の条件が変われば、法の価値も変わるのだ。
王族よ、愚かな法である、邪見解を捨てなさい。」

 

第六章

「何と言われようと、私は、そう思わない。」
「王族よ、そう考える根拠が、有るだろうか。」
「有りません、しかし、邪見を捨てられません。」

「尊者よ、私が、来世があると言い出せば、
その日から、私は、人に何と言われることか。
王に笑われるでしょう、妃に笑われるでしょう。」

「王族よ、この話を聞いて、どう感じるか。
その昔、二人の詐欺師が、博打を打っていた。
負けると、賽を飲み込んで、如何様をしていた。」

「それに気づいた相手は、止めることなく、
むしろ、反対に、賽に毒を塗って続けさせた。
一人は毒で死んで、一人は殺した罪で捕まった。」

「王族よ、では、これを、どう考えるのか。
あなたが望む方は、止める方か、続ける方か。」
「尊者よ、わたしが望むのは、選れた法である。」

「王族よ、これと、同様に考えられないか。
気づいた者が、気づかない方を、止めなさい。
王族よ、愚かな法である、邪見解を捨てなさい。」

 

第七章

「何と言われようと、私は、そう思わない。」
「王族よ、そう考える根拠が、有るだろうか。」
「有りません、しかし、邪見を捨てられません。」

「尊者よ、私が、来世があると言い出せば、
その日から、私は、人に何と言われることか。
王に笑われるでしょう、妃に笑われるでしょう。」

「王族よ、この話を聞いて、どう感じるか。
その昔、仲の良い兄弟が、宝捜しに出掛けた。
兄の方は賢かったが、弟の方は少し愚かだった。」

「しばらく、歩くと、鉄が捨てられていた。
賢い兄は、鉄を拾って、鉄を運こんで行って、
愚かな弟も、鉄を拾って、鉄を運こんで行った。」

「しばらく、歩くと、銅が捨てられていた。
賢い兄は、鉄を捨てて、銅を運こんで行って、
愚かな弟は、銅を拾わず、鉄を運こんで行った。」

「しばらく、歩くと、銀が捨てられていた。
賢い兄は、銅を捨てて、銀を運こんで行って、
愚かな弟は、銀を拾わず、鉄を運こんで行った。」

「しばらく、歩くと、金が捨てられていた。
賢い兄は、銀を捨てて、金を運こんで行って、
愚かな弟は、金を拾わず、鉄を運こんで行った。」

「王族よ、では、これを、どう考えるのか。
あなたが望む方は、愚かな方か、優れた方か。」
「尊者よ、わたしが望むのは、選れた法である。」

「王族よ、これと、同様に考えられないか。
新しい法を拾うために、古い方を捨てなさい。
王族よ、愚かな法である、邪見解を捨てなさい。」

 

第八章

「ああ、尊者よ、実に、素晴らしい法です。
今日から命が尽きるまで、真理に帰依します。
尊者よ、どうか、私の為に、戒を授けて下さい。」

「王族よ、八つの邪なる道を、離れなさい。
その一方で、八つの正しい道を、修めなさい。
こうした、大いなる戒には、大いなる徳がある。」

そして、パーヤーシは、数々の布施をした。
ところが、それらは、粗末なものが多かった。
それを見た、家臣のウッタラは、こう嘆息した。

「ああ、今生は、何かの縁で家臣になった。
とはいえ、来世は、一緒にはならないだろう。
私だったら、決して、あのような布施はしない。」

そして、極上のものを、布施したのである。
その結果、パーヤーシは、第一天界の下層に、
ウッタラは、第二天界の頂に、生まれ変わった。

さて、そのころ、長老のガヴァンパティは、
誰も居ない、セーリーカ宮に、出掛けていた。
すると、天人パーヤーシが、人恋しさに訪れた。

「はて、天人よ、あなたは、誰でしょうか。」
「尊者よ、わたしは、天人のパーヤーシです。」
「ああ、長老カッサパを供養した、王族の方か。」

「家臣ウッタラは、どこに転生しましたか。」
「偉大な布施により、三十三天に赴きました。」
「ああ、布施の果報は、ここまで違って来るか。」

そして、パーヤーシは、布施の意義を知り、
人界の縁者に、布施の果報を説いて欲しいと、
ガヴァンパティに、必死に頼み込んだのである。


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