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央掘摩経(アングリマーラ・スッタ)

仏教

残忍な盗賊アングリラーマの帰依



目次

第一章 |  第二章 |  第三章 |  第四章

 

第一章

あるとき、わたしは、このように聞いた。

ある日のこと、仏陀は、サーヴァッティの、
アナータピンディカ園に、止まっておられた。
そこには、アングリマーラという、盗賊が居た。

仏陀が、サーヴァッティに、托鉢に入ると、
アングリマーラは、仏陀を遠くから見とめた。
彼は、仏陀の姿を見つけて、このように思った。

「今日の獲物が、向こうの方から現われた。
奴の命を奪い取り、持ち物を剥ぎ取ってやる。
奴の指を切り取って、首の飾りに付けてやろう。」

早速、アングリマーラは、仏陀を追ったが、
仏陀は、神通を使って、いくら追い掛けても、
彼が、決して仏陀に、追い着けないようにした。

「おい、沙門よ、止まれ、沙門よ、止まれ。」
「私は止まっているが、汝は動かされている。
汝の方こそ止まるが良い、私に追い着くだろう。」

「沙門よ、一体、それは、どういう意味だ。」
「私は、怒りを捨てて、心が止まっているが、
汝は、怒りに捕らわれて、心が動かされている。」

アングリマーラは、はたと、刀を落とした。
そして、仏陀の足元に跪いて、地に平伏した。
それから、出家することを、懇願したのである。

 

第二章

ある日のこと、仏陀は、アングリマーラと、
アナータピンディカ園に、止まっておられた。
すると、町の人々が、パセーナディ王に訴えた。

「大王よ、この城下に、盗賊が来ています。
どうか、奴を捕えて、牢に繋いで下さいませ。
悪党が居るために、我々は気が気でありません。」

そこで、パセーナディ王は、その翌日の朝、
五百頭の軍隊を率いて、ジェータ林に入った。
それを見た、仏陀は、王に、このように言った。

「大王よ、これは、どういうつもりですか。
家を捨てて、法を学ぶ者を、滅ぼすのですか。
戒を守り、律を護る者を、危めるつもりですか。」

「いいえ、そのつもりは、全くありません。
アングリマーラという、盗賊が入り込んだと、
人々の訴えを聞いて、私が捕えに来ただけです。」

仏陀は、アングリマーラを指し示して、言った。

「大王よ、この彼が、アングリマーラです。
人々が、彼を恐れる必要は、全く有りません。
あなたが、彼を怖れる必要は、何も有りません。」

パセーナディ王は、アングリマーラに、言った。

「尊者よ、あなたの父上の名は、何ですか。
尊者よ、あなたの母上の名は、何でしょうか。」
「大王よ、父はガッカ、母はマンターニーです。」

「ああ、これは、実に、不思議なことです。
力に因っても、我々は治められなかったのに、
力に縁らないで、世尊は治めてしまわれるとは。」

このように言ってから、パセーナディ王は、
仏陀とアングリマーラに、尊敬の念を表した。
そして、座から立ち上がり、城に帰って行った。

 

第三章

ある日のこと、彼が、托鉢に回っていると、
町の通りで、難産の女性が苦しむ姿が見えた。
呻き声を聞きながら、彼は、このように考えた。

「この世は、楽しむかぎり、苦しみである。
生きとし生ける者、すべてが、苦しんでいる。
欲を持つならば、いずれは、苦に至ってしまう。」

アングリマーラは、托鉢を済ませて帰ると、
仏陀の所に行き、町で見たことを具に伝えた。
すると、彼に対し、仏陀は、このように言った。

「汝は戻って、彼女に、このように伝えよ。
『私は、未だ嘗て、生命を殺めたことがない。
あなたと、あなたの子に、幸福が訪れますよう。』

「尊師よ、それでは、妄語になりませんか。
私は、多くの、生命を殺めたことがあります。
彼女と、彼女の胎の子に、不幸が訪れませんか。」

「汝は戻って、彼女に、このように伝えよ。
『私は、未だ嘗て、生命を殺めたことがない。
あなたと、あなたの子に、幸福が訪れますよう。』

アングリマーラは、同意して、町に戻った。
彼女を見つけ出して、言われたように言うと、
すぐ、彼女も、胎児も、安楽になったのである。

 

第四章

アングリマーラは、独り静かに精進をして、
梵行の究極の目的である、阿羅漢に到達した。
彼は、もはや、生まれ変わらないことを知った。

ある日のこと、彼が、托鉢に回っていると、
昔の彼を知る人が、彼に石を投げ付けて来た。
彼の頭は血が流れて、彼の衣は裂けてしまった。

それを見た、仏陀は、彼に、このように言った。

「アングリマーラよ、忍辱せよ、忍耐せよ。
以前、汝が為した罪が、今、返ったのである。
地獄で味わう苦悩を、現世で味わった過ぎない。」

アングリマーラは、歓喜して、この詩を歌った。

「放逸であったものが、放逸ではなくなり、
悪業を重ねたものが、悪業を重ねなくなった。
剣を持たない者に、私は、相応しく調御された。」

「私は、以前は、盗賊として有名であった。
今は、アヒンサカ、傷つけない者と呼ばれる。
名の通りである、私は、二度と生命を危めない。」

「愚者は、煩悩に塗れて、怠惰に流される。
賢者は、煩悩を越える、精進に勤しんでいる。
聡明な人々は、至高の宝、真理の法を守り抜け。」


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