麻生太郎氏の所見発表演説

麻生太郎

2008年(平成20年)9月16日、自民党総裁選:所見発表演説会での麻生太郎候補者の演説全文。



 麻生太郎です。親愛なる同僚議員の皆さん、また自由民主党党員・党友の皆さん、皆さんを通じて私は敬愛する日本国国民に申し上げたいと存じます。そして世界の人々に私の己の信ずるところを訴えたいと存じます。

 私が愛する日本は、今立ちすくんでおります。本来、歩みを止めるべきときでない時に、急停止を余儀なくされたという状況にあります。このことを重んじて、私は断腸の思いを駆られます。責任を果たそうとして果たせなかったこの1週間、またこの先1週間、政治の空白に対して責任を感じるところです。国民の皆様に対しましても、心からお詫びを申し上げる次第です。

 だからこそ、この時間をいただいた、この総裁選選挙に課せられた期待と責任はことのほか大きい、そう思わないではいられません。自由民主党が本当に変わったのか、国民は見ております。開かれた国民政党としてその名に恥じない政党になったのか、国民は瞳を凝らしております。本総裁選挙の意義はまずもってその点にこそあろうと存じます。

 後世歴史家が振り返る時に、古い自民党と小泉改革以来の新しい自民党との再試合だったとそう記述するに違いないと存じます。どんな結末をもたらすのか、我々に課せられた責務は重大であります。私どもすべて国民の目を強く意識し、政策をもって白黒つける戦いに堂々と挑まねばならないと存じます。

 私は皆様の前に、政策の選択をお見せしたいと存じます。私が信じる日本人の能力を語ろうと存じます。指導者に求められる資質を述べたいとも存じます。その上で何を選ぶのか、公平無視の見方、国益を忘れぬ目を持って選んでいただきたいと、このように思っております。

 急ごしらえで作った合意は簡単に崩れます。慌ててまとめた多数派も成立のその瞬間から瓦解への方向へ動き出す。我が自由民主党は既にそのことを過去の歴史から学んだはずであります。我が党は長い歴史において、ある結論に達しております。それは指導者を選ぶ時に、国民に広く候補者と政策の選択をお見せして、国民の声を聞きながら選ぶのでなければならないということであろうと存じます。

 皆さん、今ほど日本が危機に臨んでいて、強い指導者を必要としている時はありません。安定した指導者ではありません。強くて頼りになる指導者こそ必要と致しております。また今ほど日本の農山村、漁村、地域の経済がたった2文字を求めて活動していることはありません。その2文字とは「希望」であります。皆さん、明日に希望を持って目覚め、昼は懸命に働き、夜は感謝とともに床につく、人間の営みとはこの3つが十分にできるなら幸せなのだと存じます。

 私は日本の若者に希望は大事だと思います。農山村、漁村のおじいちゃん、おばあちゃん、この先そんなに悪くはなりませんよ、きっといいことがあるよ、という希望を感じてもらいたい。私は毎晩、感謝の思いとともに眠りにつけるよう粉骨砕身この身を捧げて参る所存であります。

 また今ぐらい日本の発する言葉が重みを増している時もないのであります。日本の発する言葉とは煎じ詰めたところ、内閣総理大臣の発する言葉であります。世界がそれに耳を傾けます。日本の環境を守り、治山治水に精を出しいるお父さん、子どものお弁当をつくりそれから働きに出るお母さん、あるいはネットカフェで難民と呼ばれ、そして明日の暮らしを心配する若者に対しても、総理は呼びかけなくてはならんのだと存じます。

 私は強い言葉を発する総理になりたいと存じます。我が国の進むべき道はこうなんだと、明確な言葉を語れるような総理にもなりたいと存じます。日本という国は素晴らしい国なんだ、頼りになる仲間が、そして尊敬にたる国だと諸外国の指導者に、またその国の国民に思ってもらうことのできる、そういう言葉を発することのできる総理大臣になりたいとも考えております。

 総理に選ばれました暁には、日本をどんなふうに変えたいのか申し上げます。日本と日本人の底力に私は揺るぎない信頼を置いております。その力を十分に解放すること、それによって力強い成長軌道に今一度日本を乗せることであります。資本経済に息を吹き返させることであります。実力を開放し、持続成長をさせることです。これから具体的な例を内政について3つ、外政についても同じく3つ申し上げさせていただきます。

 はじめに内政についてであります。内政は将来不安の払しょく、これは目下の状況ではまずは年金の話だと存じます。第2は徹底的な機会の平等、不当な格差は断固潰すということです。第3に経営者の目を持って、新たな経済成長戦略を力強く推し進めるということであります。順にご説明を申し上げます。

 まずは年金です。支払い漏れが1人もないよう徹底を期します。このため、すべての国民の皆様に年金が確認できるようハガキを送りたいと存じます。社会保険庁、自治体窓口で保険料を横領したとかいう不貞な輩は、年金金銭の高を問わず言語道断の処遇であります。なぜなら、これは制度、この年金制度に寄せる国民の信頼を根底から掘り崩し、ひいては政治それ自体に不信を招いたということにほかならないのであります。

 私は年金が国民の未来というものを託するに足る、信頼のおける制度に生まれ変わるよう、政権の命を懸けて取り組んで参りたいと思います。加えて年金問題の本当の核心は、ただいま35歳の青年が65歳になったときに安心して暮らせるか、そこに見通しをつけさせてやることです。まずは現行制度に不公平を無くし、次に年金制度の将来設計を考え直す、このことに総力を注ぎ込む所存です。

 第2は機会の平等です。40歳にもなれば人間は己の顔に責任を持てとよく言われます。危機に及んでどっしり落ち着き、微笑みを絶やさぬ顔、私はこういう顔を国民の皆様に対しお見せすることも指導者の使命であろうと存じます。人間とは目の前の選択肢の中から一つひとつを選んでいき、ついには顔をも自分で作るわけであります。ところがオギャーと生まれた赤ちゃんが、その場所が日本のどこにあるか、生んでくれた両親がどんな両親であるのかは自分で選ぶことはできません。したがって政府が心掛けるべき最も大事な仕事というのは機会の平等を徹底して図るということだろうと確信します。

 そこから格差の是正という緊急の政策課題が出て参ります。中では農山村、漁村という地を、また企業でいえば中小零細企業、ここに今の日本では強い影が落ちております。農山村、漁村に生まれつき、中小零細企業で働く両親の下に生を受けた子どもが、ただそのことだけで将来に豊かな展望が持てない、そんなことになれば日本は日本ではなくなります。

 方法はあろうと存じます。例えば地方交付税のあり方を大幅に変えることがその一つだろうと存じます。補助金にしても、地方が自分の工夫を活かして使えるようにしてやる。そういうようなことができるのではないでしょうか。総務大臣として私は国から地方へ、3兆円の税源移譲という大改革をやらせていただきました。全省庁が反対だったと存じます。地方にできることは地方にという構造改革をさらに進めます。

 危機に追い込まれた時に、人間は2つの反応をとるであろうと思います。助けてくれといって人をあてにする、なにくそと言って自分で活路を開く。中央と地方の関係が今のままですと、地方になにくそという気持ちがなかなか起きません。

 例を挙げます。能登半島の加賀屋という老舗の旅館があります。ご存じかとは思いますが、交通の便が悪く、だんだんと客足が遠のいていました。しかし仲居さんに英語、中国語を勉強させ、台北や上海からのお客さんを増やして伸びました。この間の地震の被害にも遭われましたが、評判はいささかも衰えておりません。それから北海道旭川にある旭山動物園、私も行きました。今では日本一有名な動物園。あれもなにくそといって活路を開いた一例で、今では上野動物園より集客力は高いんじゃないでしょうか。

 企業や団体にはこういうことがいくらでもできる。自治体もこれはできるというように思いこませなければならない。別の例を挙げます。半導体、シリコンウエハー、シリコンの板のことです。この板に回路を書きます。普通回路は平面になります。しかし一定の面積の板に回路を平面に並べる微細な技術は限界に来ています。それなら回路を垂直に重ねて書いていけば限界を突破できるんじゃなか、実はこれは世界最先端の技術ですが、日本人の科学者が思いついた独創であります。圧倒的競争力を持つ技術で、我が国は今一度半導体作業の先頭に立つ、そんなことも決して不可能ではありません。

 申し上げます。日本の底力というものにはとてつもないものがあるんだ、私はそう信じております。そしてそういう技術を持った工場を地方が誘致してはどうでしょうか。大きな工場ではりませんよ。また観光産業なら皆さんを広く、お客さんを広くアジアに求める。エコツーリズムの客を思いきってオーストラリアとかニュージーランドとかという南半球に求める。自治体も頭さえ絞れば、そしてそれを許す財政的支援、裏付け、それに人材、それさえあればできることはいろいろある。私の都市地方間格差の是正政策の根本には、市町村長というものが地域の経営者としての発想を持って、動きやすく、そういう背骨を一本通しております。

 申し上げますが、そういう話は霞が関から出ません。総理総裁に求められる力というのは、霞が関に信頼されつつ、かつ違うアイデア、違う発想を突破口を示してやることだと思います。それに必要な総裁の能力とは、あらゆる人にこの人と話したい、話を聞いてもらいたい、アイデアを教えてやりたいそう思ってもらうことであろうと思います。

 そして第3は経営者の目を持って、新たな成長戦略を強く押し進めるということであります。成長促進といいますと、すぐ予算をくれという話になります。これが役人の発想だと思います。何か新しい商売を探したり、仕入れの仕方を変えたりして原価をもっと下げたり、これが経営者の発想です。

 我が党の政調会長をさせていただいた時でありました。港の通関やら建築申請やらそのために役所に資料を提出しろという法律は数えてみたら5万2100本ありました。それをたった1本の法律を作り、1回でそれもオンラインで手続きが済むようにしました。すさまじい抵抗がありましたが、構造改革とはこういうことをやるのだと思います。

 日本経済というもののコストを思い切って下げてやる。そして利幅が増えれば、株の配当、また働く人の給料、いわゆる労働分配率、いろんな難しい言葉がありますけれども共に上がる。こういうやり方はあろうと思います。ただし、役所の縦割りを残していてはできません。強い政治指導者がいてはじめて可能なのであろうと存じます。

 外交に話を移します。3つ申し上げたいのは、第1にインド洋の給油活動、第2に今日本の外交が歴史的転換点にあるということ、第3が拉致の解決であります。

 インド洋の活動は日本が日本の国益をかけ、自分のためにやっていることです。6年前の9月11日、日本人も24人犠牲になったことを忘れてはなりません。インド洋は日本に油を送るシーレーンの出発点であります。ここをテロリストの勝手気ままにさせてはならない。日本の国益とはその一点に集中していると言っても過言ではありません。これをアメリカのためなどというのは言語道断、もしくは事実誤認も甚だしいと存じます。

 ヨーロッパの国々が日本を見直したのはこの給油活動です。それからイラクに送られた自衛隊、盗みの一つ、軽犯罪の一つも犯さず見事な規律を示した自衛隊の若い隊員に対し、イギリスやオランダが驚いた。皆さん日本のGDPは世界の10%を占めます。中国、ロシア、韓国を足したよりまだでかい。それにふさわしい貢献を日本は立派にやっている、こう彼らは心の底から得心した。それで今、我が国の外交は大きくその智慧を広げられました。これが第2の点です。

 欧州諸国と一緒になり、東欧諸国、バルカン諸国で自由と繁栄を延ばしていく、こういう政策ができるようになった。安倍総理はインドの国会演説において、自由と繁栄の弧をつくる政策だと紹介をされました。アメリカとオーストラリアと一緒になってアジアや太平洋の安全にもっと責任を持つということ、そういう政策にもつながった。

 それらの根も元を正すとインド洋の活動であったのであります。これだけのスケールを持つ活動なのだということを誰かが国民に語り続けなければならないと存じます。私はそれをやってまいる所存です。日米同盟の強化は、こういういろんなルートからもっとできるようになります。

 第3は拉致の問題の解決であります。私は新潟の海岸に足を運びました。横田めぐみさんが連れ去られたというその場所にも行きました。鈍く曇る日本海を見ましたが、正直涙がにじみました。断固諦めない。私は日本国の主権をかけ、日本の生命を守るという国家にとって最も重要な任務の遂行のため北朝鮮に解決を迫ります。

 私はパレスチナの若者が日本を待っているのを知っています。ホンジュラスの子どもが青年海外協力隊がこしらえた教科書で算数を学び、学校が好きになったということを、カンボジアの民法を日本の若い女性の法律家が作っておるのです。私たちの誇りとする日本はとてつもない力があるんだ、ぜひ私は自分が愛し、誇りとしてやまぬ日本を、日本人の一人ひとりが誇りとして、そして未来に希望を、活力を求めることができる国になるよう、私の命を懸けて頑張っていきたいと覚悟を決めております。

 全国の党員・党友ならびに国会議員諸先生の深いご理解をお願い申し上げ、麻生太郎の所見の表明とさせていただきます。長時間のご静聴ありがとうございました。


Page Top | My Library Home