My Library Home

アルミ缶の上に

2ch



少女は座り込んでいた。
明るいライト目掛けて自殺虫がバチバチと突っ込むコンビニの前。
吐く息が白い。
いつもならば布団の中に入っている時間。
家に戻ろう、と何度も思った。
しかし、そのたびに頭をよぎる男の顔がそれを遮る。

数ヶ月前、母親はその男を連れてきた。
少女はその男を見たとき、『お客さんだ』と思った。
しかし男は一向に変える気配を見せない。
いつしか男のいる生活は当たり前となっていた。


学校から帰り、アパートのドアを開ける。
煙たい。
部屋に入るとまず目に入るのは男の背中。
タバコをくわえたまま少女の顔を一瞥すると、にやりと笑った。
ぎらりと光る黄色い歯、少女は男が好きになれなかった。
襖で仕切られた2つの部屋のうち、片方は少女の部屋となっている。
少女はランドセルを置いて部屋着に着替えるのが嫌いだった。
いくらきっちりと襖を閉めても、光が漏れる程度の隙間が出来る。
その隙間から、男が覗いているような気がしてならないのだ。


母親が帰るのはいつも18時だった。
少女が家に帰るのは16時。
2時間の間、男と2人で過ごすことになる。
(お母さん、早く帰ってきて)
襖越しに、テレビの音だけが聞こえる。
少女は出来るだけ自分の部屋で過ごそうとしていた。
しかし、10分もしないうちに男からお呼びがかかる。
「こっち来いよ」
聞こえないふりをしたこともあった。
しかし襖だけで仕切られた部屋で、それには無理がある。
パン!と勢いよく襖を開けた男は、鬼のような形相だった。
それ以来、少女は男に逆らわない。
今日もそろそろと襖を開けて、男のいる部屋へ入った。


部屋の真ん中に置かれたコタツに足を突っ込み、背中を丸めた男。
少女は出来るだけ男から離れていようと、壁に寄りかかり、座り込む。
いつもはそのままじっと2時間近くを耐え忍ぶ。
母親が帰るまで、時折自分に向けられる、男の舐めるような視線に耐えながら。

母親が守ってくれるというわけではない。
母親は少女のことよりも男に夢中だ。
ただ、母親がいるだけで、男の露骨な視線は消える。
時計の針が妙に遅く感じられる。
それでも少女は待っていた。母親の帰りを。


~♪
男の携帯電話が鳴った。
男は少々面倒くさげに電話に出る。
うん、うんと何度か相槌を打った後、あいよ、と電話を切った。
「母ちゃん、今夜は帰れなくなったってよ」
少女を見る目は、蛇のようだった。
ニヤニヤと歪められた唇から、あの黄色い歯が覗く。
少女は瞬きを忘れた。
母親は、帰ってこない、今夜は。
朝には帰ってくる?それともお昼?あと何時間この男と一緒にいればいいの?
「コタツ入れよ」
コタツ布団をめくって、男は言った。


少女は首を振った。
拒否すると、いつも男は恐ろしい顔する。
しかし今日は違った。
「寒いだろ?」
スカートの裾から見える素足に視線を這わせ、男は聞く。
少女はぞっとして、足を隠そうとしたが、簡単に隠せはしない。
コタツに足を突っ込んだほうが良いかもしれない、と少女はコタツににじり寄った。
「おっと、こうした方が温かいかな」
つかまれる少女の腕。
軽い体はらくらくと持ち上げられ、男がかいたあぐらの上に座る形となった。


嫌だ嫌だ嫌だ
少女の頭の中は嫌悪感で一杯だった。
肩に乗せられた男の顎。
背中に張り付く男の胸板。
男の腕は少女の細い二の腕をつかんでいて、動くことが出来ない。
テレビでは面白くも無いお笑い芸人のネタで笑いが巻き起こっている。
笑いとは正反対の感情に、少女は押しつぶされそうになり涙をにじませた。
「!?」
男の両手が、少女のまだ幼い胸を包んだ。
「お前まだブラもしてないだろう?」
やわやわと揉まれる乳房。
「や、やだ・・・」
にじんだ涙は見る見るうちに盛り上がり、ポロリとこぼれた。


「あっ」
乳首をつままれ、少女は声を上げた。
男の息が荒くなる。
はぁはぁと吐かれる息は少女の首筋にかかり、タバコくさかった。
「『父親』として心配してやってんだろうが。下はもう生えたのか?え?」
左手はコリコリと乳首をいじりながら、スカートをめくった右手は下着の中に突っ込まれた。
「いやぁ!」
「お、なんかフワフワしてるぞ。うっすら生えてんじゃねえか?」
少女は身をよじった。
男の力は強く、逃げられない。
薄い陰毛をなでていた男の右手は無遠慮にも性器をこじ開けてくる。
乱暴に手を突っ込まれたままの下着からはブチブチと糸の切れる音がしている。
「小学生だもんなぁ。もうクリは感じるのか?」
人差し指と中指に挟まれ擦られるクリトリス。
「んっ・・・んっ・・・」
少女は声を押し殺していた。


少女は腰に違和感を覚えた。
何か硬いものがゴツゴツと当たっている。
考えたくは無かった。保健体育で習ったような気がする。
皆興味無い振りをしながらもこっそりと読んでいたページ。
これは、男の。
「やだぁぁぁあ!!」
少女は叫ぶように泣き出した。
一瞬、男はひるんだ。
力の緩んだその隙に、少女は男の拘束から抜け出した。


玄関に散らばっていたサンダルを一組掴み、体当たりするようにドアを開けた。
足の裏に小石が食い込む。
しかし今は止まってはいけなかった。
後ろを振り向く余裕は無い。
さっきまで背中に張り付いていた男の体温はまだ生々しく残っている。
男が今この瞬間もすぐ後ろにいるのではないだろうか。
少女はサンダルを掴んだ手を必死に振り、街頭の下を駆け抜けた。

ようやく立ち止まった少女は、血まみれの足の裏に気づき、サンダルを履いた。
ずいぶん遠くまで来た。
走ってこれたのが不思議なほどだった。
男の姿は無い。


住宅街のはずれにある寂れた商店街。日中でもシャッターを下ろした店が多い上、今の時間では殆どの店が閉まっていた。
少女は明かりを求めさまよった。
一際まぶしく白い光を放つ建物が少女を招き寄せる。
コンビニだった。
(寒い・・・)
少女は肩を震わせながら、コンビニへと入った。
温かい空気。
レジには湯気を立てるおでん。
ふわふわの肉まん。
少女は空腹だった。
しかし、お金を持っていない。


(お腹すいた)
家の冷蔵庫にはサンドイッチが入っていた気がする。
でも、戻ることは出来ない。
家には男がいる。
恐らく、あの鬼のような形相で少女を待ち構えているのだろう。
腰に当たっていたあの硬いもので、何をされるのか、少女には想像がついた。
2時間ほど、コンビニの中をウロウロした。
他のお客もほとんどいなくなった頃、店員が少女に声をかけた。
「小学生?もう遅いからお家に帰らなきゃ。お父さんかお母さんは?」
「あ、あの・・・」
少女は緊張で体が固まり、店から逃げ出した。
途端に身にしみる寒さ。
他のお店に行こう・・・。
少女はトボトボと歩き出した。
住宅街の電気は殆ど消えている。
等間隔に並ぶ街灯の明かりだけが頼りだった。


(警察に、行くべきなのかな)
少女は300メートルほど離れた場所にまたコンビニを見つけ、その前に座り込んでいた。
もう夜遅いため、1人ではいるとさっきのように店員が何か行ってくるかもしれない。

警察に駆け込んだところで、やはりあの家に戻されるのだろうか。
男が待つあの家に、自分を見ずに、男の気を引こうと躍起な母親が帰ってくるあの家に。
「帰りたくないよ・・・」
少女は泣きそうな声でぽつりと呟いた。


気が付くと、朝だった。
体は冷え切っている。
コンクリートに座り込んでいたため、お尻が痛い。
胃が痛い。
空腹を通り越していた。
ふと気づくと、自分を指差してなにやらボソボソ放している人のかたまり。
少女は立ち上がり、その場から離れた。
膝がポキポキと音を立てた。
しばらく歩くと、大きなスーパーを見つけた。
お金は無いが、寒さから逃れるために入ってみる。
ざわざわとした喧騒に、店内のBGMが自分の置かれている状況とは似つかない、
しかし、スーパーの人ごみの中にまぎれた少女に違和感を覚える者は1人としていなかった。


いいにおいがする。
ハム・ウインナーの売り場からだった。
ホットプレートの上でジュージューと音を立てて焼かれるウインナー。
少女はふらふらとひかれていった。
ホットプレートの上で油と絡まるウインナーを少女が凝視していると、爪楊枝に刺さったウインナーが少女の目の前に差し出された。
「はい、どうぞ」
少女が顔を上げると、18、9くらいの少年こちらをみてにっこり笑っていた。
三角巾を頭に巻き、エプロンと言う格好で、ウインナーを焼いている。試食コーナーのアルバイトらしかった。
少女はウインナーを受け取り、あっという間に食べきった。


足りない。
すぐにそう思った。
少年に『ありがとう』と言うべきなのだろうが、なぜか少女は笑ってその言葉を言うことが出来なかった。
じっと、ウインナーを見つめる。
「もっと食べる?」
少年は少女に聞いた。
無言で少女はうなずいた。
少年がウインナーを爪楊枝にさして差し出すと、少女は奪い取るようにしてそのウインナーを食べた。
少年は少し驚いたようだった。
「朝ごはん、食べてないの?」
また、少女は無言でうなずく。
「お母さんは?」
少女は首を振った。


「う~ん」
少年は腰に手を当て、うなった。
少し考えてから、大き目の紙皿に焼いたウインナーをぽんぽんと並べていく。
そして爪楊枝を一本刺して、少女にその皿を差し出した。
「ほら、全部食べちゃいな。今店長出て行ってるから、内緒な。」
シーっと人差し指を口元にあてて、少年はいたずらっぽく笑った。
少女は大きな目をまん丸にして、少年を見つめ返した。
口元がプルプルと震える。
『ありがとう』その言葉が出てこない。
せめて、笑い返したい。
なのに顔の筋肉はすっかり強張って、泣きそうな顔しか出来なかった。


「あ~泣かないで泣かないで;ほらおばちゃんが見てるからさ」
少年はあわてた様に手を振った。
そして新たなウインナーの袋を開封してホットプレートの上で逆さにし、ボトボトとウインナーを落としていく。
「それ食べたらお家帰りなよ?」
少年の言葉に、少女は今度こそ本気で泣きそうな顔をした。
「・・・帰れないの・・・」
少女はうつむき、肩を震わせた。


少年は困ったように頭を掻いた。
駄々をこねる子供にしては様子が深刻だ。
「よし、ウインナーだけじゃ体に悪いからな。俺今日はバイト12時で上がるんだ。ほら、向かいに公園があるだろう?
そこで待ってな。レストランにでも連れてってあげるからさ」
うつむいていた少女の顔が上がる。
相変わらず笑顔は無いけれど、その瞳が輝いている気がした。
少女は長い髪を揺らし、スーパーを出て行った。


少年の言ったとおり、スーパーの向かいには公園があった。
少女の住んでいたアパートの側にあった、ちゃちな遊具が数点あるだけの広場ではなく、
緑が多く大きな池もある立派な公園だ。
少女はスーパーが見える位置のベンチに腰掛け、足をブラブラさせていた。
母親はもう帰ってきただろうか。
土曜日の休日に家にいない自分に気づくだろうか?
父親を問い詰めるだろうか?
自分を探してくれるだろうか?

しかし、いくら考えても、少女の脳裏に浮かぶのは男に絡みつく『女』の母親の姿だけだった。


「お待たせ」
少年はエプロンをはずした普段着で少女の前に現れた。
時刻は12時を回ったところ。
少女のお腹はグゥと音を鳴らした。
「はは、じゃあ行こうか。近くにファミレスがあるから、そこでいい?」
少女はうなずいた。


ファミレスの中はガヤガヤと騒がしかった。
休日のお昼とあって、親子連れが多い。
少女と少年は4人がけの席に座った。
「好きなの頼んで良いよ」
少女はカラフルなメニューに目を走らせる。
目がチカチカしてきた。
「オレはハンバーグ定食にすっかな・・・。君は?」
少女は相変わらずメニューのあちこちに目を走らせている。
「こんなところ来るの初めてだから・・・分かんないの」
少年はパチパチと瞬きをした。
「初めてなの?」
少女はこくりとうなずいた。
あの男が来る前にも、母親には恋人がいた。
今よりももっと幼かった少女を置いて、母親はよく男の元に出かけた。
最低限の食事は用意されていたものの、家族でレストランに行き、和やかな時間を過ごす、などということは少女にとっては夢のまた夢だった。


「じゃあオレが勝手に決めちゃうよ?」
少年はウエイトレスを呼び、メニューを指しながら注文をした。
「オムライスとシーザーサラダ。それとハンバーグ定食。あ、ドリンクバーも」
「かしこまりました」
ウエイトレスが去っていくと、少年は席を立ち、少女を促した。
「飲み物取りに行こう」
少女は少年の後についていく。
コップを渡され、初めてのドリンクバー。
機械の操作がいまいち分からずメロンソーダを溢れさせてしまい、少年に笑われた。


注文した料理が運ばれてくる。
少女はトロトロのオムライスにごくりとのどを鳴らした。
外食よりも母親の手料理の方が良いという意見も多いはずだが、
少女にとってはこのオムライスが何倍ものご馳走だった。
「ほら、野菜も食べな」
シーザーサラダをすすめながら、少年は笑った。

料理を一通り平らげ、少年は少女に聞いた。
「なんで、家に帰れないの?」
少女の満腹のお腹がキュッと痛んだ気がした。


「お母さんは家にいるの?」
多分、もう帰っているだろう。それに土日は休みだ。
少女は小さくうなずいた。
「お父さんは?」
ズキンと胸が痛む。
本当の父親は少女が生まれる前に亡くなっている。
あの男は『父親』ということになるのだろうか?
嫌だ。
あんなの『お父さん』じゃない。
少女は首を振った。


「お母さんがお家にいるなら、ちゃんと帰らなきゃ。心配してるよ」
少女は首を振った。
母親が心配をしているところが想像できない。
男の視線から逃れるため、頼ってきた母親。
しかしもう少女の中では頼れる存在ではなくなっていた。
「学校も行かなきゃいけないだろ?お家から通わなきゃ」
少女はまた首を振った。
少年は困ったような顔をした。
「お家はどこ?オレが付いていくから」


「いや!」
少女は強く言った。
「いい加減にしろ!」
少年も強めに返した。
今まで穏やかだった少年に少しおびえたのか、少女はびくっと肩を揺らした。
「イヤイヤじゃあダメだ。いつまでも外でウロウロする訳にもいかないだろう。ほら、帰るよ」
少年は伝票を取り、席を立った。
少女は涙を流しながら嗚咽を漏らしていた。
少年に怒られたことと、そしてあの男の家に戻らなければいけないことに絶望して。


少年はファミレスを出てから、少女と手をつないでいた。
放っておくと逃げ出してしまいそうだったからだ。
少女の足取りは重かった。
(帰りたくない)
結構な距離があるが、2人はひたすら歩いた。
少女の歩みは遅いが、少年は根気強く付き合った。
家への距離が縮まるほど、少女の表情は暗くなる。
(そう言えばこの子は一度も笑ってないな)
少年がふと思ったとき、繋いだ少女の手がブルブルと震えだした。
少女の瞳は20メートルほど先にある古いアパートを見ている。
「やっぱり嫌!」
少女は少年の手を振り解き、今まで来た道を駆け出していった。
「あ!こら!」
少年は少女を追いかけようと思ったが、アパートの前で言い争いをしている男女を見て、足を止めた。


「このロリコン!最初からあたしよりもあの子の方が目当てだったんじゃないのかい!?」
「うるせえなぁ!ガバガバのババァよりも若いほうがいいのは当たり前だろ!」
部屋着の男女が人目もはばからず大喧嘩を繰り広げている。
女は布団たたきで男をバシバシと叩き、男を追い出そうとしているように見えた。
少年は女に少女の面影を見た。
もしかしてと思い、恐る恐る2人に近づく。
「あの・・・」
「なによ!」
ひるんだ少年だが、負けじと女に向き直る。
「11歳か12歳くらいの女の子を預かっているんですが、もしかしてお宅の娘さんでは・・・
髪が長くて、白い服で、ええと・・・サンダルを履いた」
「ああ多分そうだね」
少年の顔がぱっと明るくなる。
「さっきまでそこにいたんです、連れてきます!」
少女が走っていった方に駆け出そうとした少年を、母親の声が止めた。
「ああ良いよ良いよ別に!」


「あの子はあたしの男を誘惑したんだよ。
こいつ追い出したら別の男連れてくる予定だからね。いないほうが都合良いんだよ。」
母親ははき捨てるように行ってから、バシン!と強烈な一発を男の背中にお見舞いした。
少年は呆然と立ち尽くした。
帰れない、と言っていた少女の言葉がよみがえる。
ただの我がままだと思って強く当たった自分に、一気に後悔の波が寄せてきた。
この男は少女を犯そうとし、母親は少女がいない方が好都合だと吐き捨てる。
少年は少女を追いかけた。


少女はひたすら走った。
男から逃げた夜のように、後ろを振り返らずに走った。
親切だった少年は、あの家に自分を戻そうとする。
誰を頼って良いのか分からない。
日も暮れようとしている。
ここがどこだか分からない。家への道も分からない。
それでいいのかもしれない。
帰りたくも無いのだから。

お昼にたっぷり食べたはずだが、胃腸はよほど正常な働きをしたらしい。
正直にグゥと音を立てた。
お昼には少年に笑われた。
今は日が暮れた名も知らぬ街で、少女は途方にくれている。


すっかり暗くなると、やはり明かりを求めてしまう。
少女はまたコンビニの前にいた。
ペタンと座り込む。
服を見ると、薄汚れている。
(乞食みたいだな)
以前、何かの本で見たことがある。
空き缶を目の前に置いて、レンガの壁を背に道端に座り込んで、たまに通行人がチャリンチャリンと音を立てて、
空き缶の中に小銭を落としていく。
(・・・やってみようか・・・)


少女はコンビニの前のゴミ箱を漁った。
空き缶のゴミ箱の中には当たり前だが空き缶がゴロゴロ入っている。
しかし、少女が期待したような、上部のふたが缶切りでパカッと開けられたような
ものは無かった。
(イワシの缶詰とか捨ててないのかな・・・。ジュースばっかり)
仕方が無いので少女はジュースの空き缶を目の前に置き、再び座り込んだ。
飲み口の小さな穴には、到底小銭は入りそうに無い。


少女はじっと座っていた。
たまにゴミを回収しに店員が来たので、そのときはさっと姿を隠した。
しかし、ただでさえ通行人が少ない上、少女のアイデアは外れたのか、
小銭を空き缶に放り込もうとする人はいなかった。


少女は膝を抱え、顔を伏せた。
お腹は空いたしとても寒い。
たまに聞こえるバチバチという痛そうな音。
顔を上げると、虫がライトに突っ込んでいた。
自分もあの虫と同じくらい馬鹿なことをやっているのかもしれない。
少女は再び顔を伏せた。
こんどは涙が出てきた。


「探したよ」
いつしか眠り込んでいた少女だが、頭上からふる優しい声に、また顔を上げた。
そこにいたのは少年だった。
自転車から降りて、少女の前にしゃがみ込んだ。
「ゴメンな、何にも知らないのに帰れ帰れ言っちゃって」
少女はフルフルと首を振った。
「その缶、なに?空ならあそこにゴミ箱あるよ」
「・・・乞食の真似。そうしてたら誰かがお金入れてくれるかな・・・って」
「いや~この穴にお金は入らないわ・・・」
少年は苦笑した。
この人はまた、自分をあの家に連れて帰るのか?
少女はいくらか警戒していた。


「オレのうちおいでよ」
少女は予想もしなかった言葉に目を見開いた。
「オレ大学生でさ、1人暮らししてんだ。
ずっと・・・ってのは無理かもしれないけど、取り合えず落ち着くところが必要だろう?」
少女は何も言わずパチパチと瞬きを繰り返す。
「お金はあんま無いけどさ、バイト頑張るし、たまにはファミレスにも連れてってあげられるよ」
少女は少年を見つめた。
言葉が出てこない。
「それにこれくらいのユーモアはある。」
少年はコンビニの中に入り、何かを買ってすぐに出てきた。
取り出したのは、みかん。
それを少女の前に置かれた空き缶の上にポンとのせて、指をさし、言った。
「アルミ缶の上に・・・?」
少女はおずおずと答える。
「ある・・・みかん・・・?」
「あったり!面白いだろ?」

「・・・つまんないよ!」

少女は少年を見上げて微笑んだ。


Page Top | My Library Home