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インフルエンザ脳症

2ch



息子が4才の時、私が羅患していたインフルエンザに感染し、
40度以上の高熱を出し、深夜に痙攣を起こした。
意識はなく、搬入先の病院から、翌朝、県都にある緊急病院に転送された。
ICU(集中治療室)のベッドに寝かされ、胸や鼻にチューブやらコードやら
取り付けられた。

医師からはインフルエンザ脳症ですと告げられ、壊死性脳症というタイプの
病状であり、今のところ小脳が壊死(脳が死んでいる)している旨、また、
症例もあまりなく治療法が確立されていないこと、過去の症例等の説明があった。
その説明を聞いて、「息子はもう死んでしまうのだな」と感じた。

医療処置があるのでとのことで、いったん待合所に出、椅子に座りながら、
妻(別の病院に入院中)にどのように説明しようかと悩んでいた時、
ふと目の前の清涼飲料の自動販売機に気がついた。
その中に息子がよく飲んでいたポケモンのオレンジジュースがあることを発見したのだ。
缶のふたのところに5百円玉位のおおきさのポケモンのコインが入っていて、
息子がコイン目当てに買っていた物だった。
その瞬間、これまでの出来事が余りにも突然なため、「息子の死」というものについて、
実感を持って理解できなっかたのだが、急に涙が溢れてきて、いつまでも止まらなかった。
昨日まで本当に元気にしていた。
覚えたばかりのふざけたテレビ漫画の歌を大声で歌うものだから、「うるせえ!」と
怒鳴りつけたのも昨日のことだ。そんなことが次から次ぎへと走馬燈のように頭の中を
回り、今病院にいることが夢なのかどうかさえも分からなくなり、ひとりで泣き続けた。

それから、ICUでの入院生活が続いた。約1週間、依然として胸のチューブ等はついたままで、
意識はあるのかどうか分からず、普段の3分の1位しか開かない眼はうつろだった。
もちろん手や足はほとんど動かなかった。
話しかけても、返事もなく、時折眼球が私の方を追うようにゆっくりと動くが、
見えているのかどうかも分からなかった。

看護婦さんがテレビを運んできてくれた。「外からの刺激も大事ですから」と
NHK教育テレビをつけて去っていった。
それから2.3日。いつもと同じように息子が見えるように教育テレビをつけ、
私は呆然としながら脇に付き添っていた。
すると突然、かすれるような小さい声で「だ...ん....ご」。
びっくりして息子の方を向くと、テレビの方をみながら息子の口元がかすかに笑っている。
しゃべったのだ。
思わずテレビの音量を上げた。
テレビは「ダンゴ三兄弟」の歌を放送していたのだ。やっぱり息子の好きな歌だった。
テレビは見えていたし、歌も覚えていたのだ。
よかった。うれしかった。
歌が終わると、息子は眠りはじめた。
私は自動販売機にポケモンのジュースを買いに行った。


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