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母さんの赤い口紅

2ch



5歳の頃、母さんの赤い口紅に憧れた私が、勝手に使って根元から折ってしまったことがありましたね。
「なんで折れちゃったの?お化粧してみたかった?」と聞く母さんに、泣きながら頷くことしか出来ませんでした。
「人の物を勝手に使ったらダメだよ。でも、わざと折ったんじゃないよね。お母さん分かってるからね。」
そうやって優しくたしなめられて、自分を信じてくれることが嬉しくて、悪いことをした罪悪感でいっぱいになりました。
謝るのが苦手な子供だった私も、その時ばかりはしゃくりあげながら何ども「ごめんなさい」を繰り返しました。
「何が悪かったのか分かったから、これからは同じ失敗しないね。お母さんでごめんなさいの練習できてよかったね。」
そう言って泣き止むまで膝に抱いて頭を撫でてくれたこと、今でもはっきり覚えています。

翌朝、しっかり化粧をして朝ご飯を作る母さんに「口紅は?」と聞いたら、
「折れただけだから大丈夫。筆でほじくればちゃんと使えるよ。」と笑われましたね。
夕方、買い物から帰ってきて、イチゴの匂いつきの可愛い子供用リップクリームを渡しながら
「今度は折らないようにね。色の付いた口紅は、大きくなったら買ってあげる。」
そう言われて、また号泣しました。

その事をふと思い出し、こんなこともあったよねと電話口で話すと、
「そう?覚えてないわ~。」と返され、少し笑ってしまいました。
二十歳の誕生日に、鮮やかなローズピンクの口紅をくれたことは、偶然ということにしておきましょうか。
 
 どこまでも寛大でおおらかで優しい、自慢の母親です。
 ありがとう。あなたの娘で本当によかった。

来月、幼馴染の結婚式参列のため、久々に地元へ帰ります。
あの時の口紅はもう無くなったけど、化粧が似合う大人になった娘の姿、見てやってください。
孫の顔見せるのは、もう少しだけ待っててね。
どんなイケメンでも、母さん以上にかっこいい旦那様なんて、そうそう見つけられそうにないから。


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